食べたいもの
◇聡/二‐二
「今日は何を食べたい?」
大体予想は付いているが、一応柚に聞いてみる。
「……大盛り炒飯」
やっぱり。柚は炒飯が好物らしく、ほぼ九割が炒飯だった。
しかし、炒飯だけではバランスが悪いので、大盛り炒飯に細工をして「大盛り野菜たっぷり具だくさん炒飯」を作るようにイメージする。
光が部屋全体を覆い、そして深皿の上には想像通りの炒飯が出来ていた。
柚はその炒飯を見て、う、と眉間に皺を寄せる。
「ほうれん草がはいってる」
「鉄分は身体にいいから食え、分かったな」
「はぁい」
渋々と頷き、柚専用となったレンゲをつかみ、高々と盛られた炒飯を食べ始める。
俺はその横でテレビを見る。深夜番組で果てしない旅を続ける芸能人。毎回毎回よくやるなあ。
柚も時々見ているがよく分からないようだ。首をかしげ、炒飯に専念する。
そうして炒飯を食べ終え、しばらくぼーっとテレビを見てから、俺はベッド、柚はこたつか布団で就寝する。
交わす言葉も少なく、ただ与える貰うの関係。
いつまでも続くことはない関係。それは、分かっていた。
朝、ごそごそと動く音。眠い頭で、柚が起きたことを理解する。
いつもなら俺も起きるが、今日は久しぶりの休みなのでそのまま眠ることにする。
ドアが開き、閉まる音。――夜になるまで、さようなら。
目が覚める。時計を見ると昼の十二時を指していた。
「寝たなぁ」
感心するほどよく寝た。身体の関節が動かさないことに文句を言っている。軽くストレッチをしながら身体を起こす。そして、部屋全体を見てその異常に気づいた。
部屋が、まるで新築の家みたいに綺麗になっていた。
ほぼベッドハウス化していた部屋は、お世辞にも綺麗ではなかった。二十代の男性にありがちな生活圏だけ綺麗な部屋の代表選手だった俺の部屋は、見事にハウスクリーニングされていたのだ。
柚がやったのか? 柚は確かに家事は上手だが、短時間にこんなことが出来るはずがない。
というか、掃除している時点で起きるわな、普通。
その上、俺の生活での癖を熟知したようなモノの配置。いやいや、俺でもこんなに自分を知らないってと思うくらい、使いやすい。
こんなことが現実であるのか? しばらく考え込む。
――あった、俺が知っている中で唯一、これを可能にすることが。