食べたいもの
柚は夜の間だけ俺の部屋に寄る。これは柚がご飯目的に来ているわけではなく、俺が来いと言ったから渋々来ているといった状況だ。やはり、未成年者、しかも女の子を夜の町に出すわけには行かない。
「よ、だんだん寒くなったな」
「……うん」
その証拠にこんな会話だ。長い話をしたことは無いんじゃないか? 顔は話しかける度に下を向くし。はあ、とため息をつきながら俺はドアノブに鍵を指し、ドアを開ける。
「ほれ、入れ。ああ、あとお風呂沸かしてくれ」
「……分かった」
「お風呂、沸かしたよ。聡さん」
柚が風呂場から出てくる。半年以上やってるからさすがに早くなった。
「お、ありがとさん。先に入れよ」
つまみと酒を用意し、部屋着に着替えた俺はテレビとこたつの電源をつける。
「……入らなきゃ駄目?」
「駄目。あとその服、洗濯するからパジャマ選んどけよ」
う、と柚が嫌そうな顔をする。
基本的に柚の服は俺のお古を柚が仕立て直し、使うことになっていた。しかし、パジャマに関してはいちいち俺のを仕立て直すのが面倒なのでそのまま使うことになった。洗濯するときにしか着ないが、どうも柚にとっては恥ずかしいらしい。
ちなみに、俺がソデあまりパジャマが好きという理由は決してない。断じて。
「お風呂、入ってくるね」
「おう、ゆっくり入ってこい」
俺はテレビを見ながら軽く返事をした。
◆柚/二‐一
湯船につかる。乾いた大地に落ちた水のように身体に広がる暖かさが気持ちいい。
あの日から、まさかお風呂に入れる日々が来るとは思わなかった。
幸運、だと思う。はっきり言って行き過ぎた幸せ。
だから怖い。
失うことが。