食べたいもの
◇聡/一‐二
「確かに勝手に脱がせた事については謝る。思春期の少女という配慮を怠ったことについてもだ。だが俺があそこで助けなかったら、君は確実に死んでいたという事実について考えて欲しい」
「……服を脱がしたのは、やましいことをしたかったからですか?」
少女は布団を自分の胸元に押しつけながら俺を睨みつつ会話する。そんなに隠すほどの胸をしていないくせに。
「なら見るか、俺の秘蔵コレクション。全部巨乳物だぞー」
俺はがさごそとベット下を探る。あ、あったあった。俺のマイベストERO本『秋野瑠璃香のうぃっち・はんと☆』。
「いいです。と言うかしたら窓から叫んで助けを呼びます」
「命の恩人に……血も涙もないのか君は」
俺はがっくりと肩を落とした。
服を脱がせたのにもわけがある。臭いというのも一つの原因だが、本当は防寒作用の無い服は逆に身体の熱を奪うからだ。しかも雪のせいで服は既にカチンコチンと凍りかけていた。
だったら着替えさせて暖かい服を着せた方がすぐに暖まるだろうと考えてやったこと。人命救助のための行動だ。感謝されることはあっても、非難される言われはない。
無いはずだが、涙目でこっちを睨み続けられると、さすがに罪悪感も芽生えるわけで。
「ともかく、やましいことはしてない。それは信じてくれ」
「……分かりました」
そう納得させるのが限界だった。
「で、何日食べてないんだ」
話も一段落ついたので、俺は本題に移った。本題とはすなわち、何故あそこで倒れていたかと言うこと。
「……四日です」
俺の真剣な眼差しに気づいたのか、素直に話す。
「親は?」
「……親と呼べる人はもういません」
「身よりは?」
「無いです」
「何日目だ」
「四日目です」
その言葉で大体の事は把握した。
かける言葉が思いつかず、しばらく時間が過ぎる。さすがに無言が続くのも気が引ける。
「……飯、食べるか?」
口からそんな言葉が出ていた。
◆柚/一‐二
彼がレンゲと深皿をコタツの上に置く。中には何もない。
「四日も食べてないつーことは、胃も弱ってるはずだから、おかゆでいいか。何味が好きだ?」
中身が何もない皿を目の前にして、彼はおかゆの味を聞いてくる。
「……何もないのに、おかゆの味を聞いてどうするんですか」
あ、と彼が何かに気づいたように口を開ける。