食べたいもの
しかもフードが付いたトレーナーとジーンズだけと言う軽装。――明らかに素人だ。いや、家出少女と言うべきか。
「……まずいな」
この寒さで雪が降るということは、この家出少女の死亡は確定したも同じ。この状況が続けば、だが。
しばらく考え込む。警察に連絡か? いや、救急車の方が先か? しかしこの状況だと彼女に取ってその二つは迷惑この上ないことだろう。
その時、ぐう、と腹がなる音が聞こえた。
「仕方ない」
俺は決心した。
◆柚/一‐一
あれ、と暖かいと感じる身体に疑問を浮かべ、目を開いた。
見えたのは、掛け布団。あるはずが無いもの。
「やっと起きたか」
横から、男の人の声が聞こえた。
慌てて、その声を出している人を見た。
二十歳くらいの男性が、柚が寝ている横で座っていた。髪は黒く、ボサッとなるところを無理矢理後ろに流している印象。部屋着なのだろうか、少し厚手の白いカッターシャツと目が細かいジーンズを着ていた。
「危ない危ない、俺の寝床が無くなるところだった」
そう言うと男の人は何も聞かず、ワンルームの奥の廊下へと歩いていった。
しばらくその廊下を眺めているうち、だんだんと意識が覚醒してくる。
確か、柚は、公園前で倒れて……。
でも、目の前は暖かい布団とベッドとコタツとテレビ。欲しかった物が、全てある。
そうか、ここは天国かもしれない。……いやいやいや、こんな庶民的な天国はさすがにない。
顔をふるふると振り、ベッドから身を起こす。ぺた、と頭から何かが落ちた。
濡れタオル? まだ少し暖かい。その落ちたタオルを布団から拾おうとするとき、身体の異変、と言うよりも着衣の異変に気づいた。
服装が、前の服装じゃなかった。
ポリエステルと綿の、暖かいパジャマ。しかもサイズはさっきの男の人の物らしく、柚にはだぼだぼで、袖から手が出ていない位だった。必死に袖をたくしあげ、濡れタオルをつかみ取る。
「……あ?」
つ、つまり、男の人しかいなくて服が替わってて気を失ったわけだからこれわその、あ、ぶ、ブラは……無い、ショーツも履き心地が違う、つまり――
「とりあえず、暖かいココア作ってきたぞ」
「う、う。うぇぇぇぇん!」
柚は怒りを全てタオルに込め、カップを持ったままの男の人に力一杯投げつけた。