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食べたいもの

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 雨が降る中、大量の具材が入ったスーパーの袋を持ち帰る。柚はお風呂から上がったらしく、俺のパジャマを着ていた。
 俺も軽く風呂に入り、真っさらな状態になったキッチンに立つ。いつもは広い厨房で料理しているからちょっと扱いづらいが、文句は言ってられない。ちなみに料理器具だけは昔の名残でいいのがあった。
「さて、始めますか!」
 楽しい楽しい、料理の時間だ。

「さ、聡さん! こんなにあっても食べれませんよ!」
 こたつ一面に並べられた大小様々な皿。その全てに料理がのっているスケールに圧倒されたのか、柚はいささか混乱気味だ。
「ははは、腕によりをかけて作ったからな。お残しはゆるしまへんでぇ!」
「そんなぁ……」
 柚が少し涙目になる。大丈夫だ、柚。お前は毎回大盛り炒飯(推定二合分)を食べているじゃないか!
 持ってきた最後の深皿にはもちろん、大盛り炒飯が強大な存在感を放っていた。


 ◆柚/五‐一


「じゃ、いただきます」
 いただきます、と手を合わせた。そして目の前の様々な料理を小皿へ移し、食べる。
 おいしい。それは料理がおいしいのとは違った暖かみのあるおいしさだった。
 テレビで芸人さんが馬鹿をやって笑いを取っている。なにしてんだあいつ、と聡さんが笑う。それにつられて柚も笑ってしまう。
 お箸もどんどん進み、絶対無理と思っていた分量も、時間をかけゆっくりと消化していった。時間は不思議にも短いように感じた。
 いつもの『ちから』で得たご飯よりも、おいしくて、たのしくて、――幸せだった。
 いつの間にか涙が次から次へとぼろぼろ流れ、止まらなかった。
「どうだ、悪くないだろ?」と、聡さんが笑った。
「はいっ」
 柚は精一杯の笑顔で、その言葉に答えた。

作品名:食べたいもの 作家名:犬ガオ