小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

食べたいもの

INDEX|13ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

 ◇聡/四‐二


 俺は雨の中立ち尽くす柚の手を掴んだ。
「――はなして、くださいっ」
 手を振り、話そうとする柚。俺は柚に聞いた。
「離して、いいのか?」
 柚の手の動きが止まった。
「離したら柚はどこにいくんだ? あの公園か? 近くのコンビニか? それとも、自分の家か?」
 柚は自分の家のところでビク、と反応する。
 それは俺が見ないように逸らしてきた、柚の過去についての言及。
「……柚は、俺に少しだけ似てるんだよ、境遇がな」
 そう、大部分は違うが、本質的に柚と俺は同じ被害者だ。
「俺の親父は投資家だった。だけど最悪な親でさ、投資が失敗したときのはけ口が俺だった。年追うごとにそのはけ口としての役割がでかくなって、最後じゃ殴る蹴るは当たり前になってた。だから、俺は家を出た」
 淡々と俺は過去を語り出す。はっきり言っていい記憶じゃない。トラウマにも近いものだ。だけど、今は、柚と話すために必要だと思った。
「ただ、俺と柚との違いは働ける年か、働けない年かなんだ」
 スタートラインが違うだけ、ただそれだけの違い。
 昔の自分を重ねていたからこそ、助けようと思った。
「俺と同じように、何か自分のための『ちから』を持てばと思った。そうしたら、きっと幸せになれると思ったんだ」
 今の俺がそうであるように。
「……それでも柚は、聡さんに恩返ししたいです」
 柚は決してこちらを向かず、ただただ、雨音響くアスファルトの地面を見つめている。
「なら、俺にとっての最大の恩返しは、柚が幸せになることだ」
 俺は二回目か三回目の言葉を言う。今度は、もっと力強く、そして――自分の願いを込めて。
 しかし、柚はふるふるとまた首を振り、その言葉を述べた。
「柚は、幸せです。命を救ってくれたときから」
 何かが分かった気がした。


 ◆柚/四‐二


 親に捨てられた最初の一日は、コンビニを転々とした。
 二日目は公園の隅で泣いた。
 三日目は空腹を紛らすため、公園の水を飲むしかなかった。
 四日目は何もする気になれず、ただ寒さに震えるだけだった。
 そして、世界に居場所がないことに絶望して、倒れた。
 あとは死ぬだけだった。意識が遠のくとき、雪が降っていることだけが分かった。
 白い世界、何も無い世界で死ぬのも悪くないな、とさえ思った。
 だけど、そんな世界から、あの人は救ってくれた。
作品名:食べたいもの 作家名:犬ガオ