食べたいもの
◇聡/三‐一
部屋に帰ると、洗濯出来る衣類、布団等々が全てクリーニングに出されたような新品の姿をして出迎えてくれた。万年床のこたつ布団までお日様の匂いがするよ……。
掃除された部屋と相まって、俺の部屋とは言い難いほど変わっていた。
三人ともこたつに座る。
「……ホントに叶ったんですね」
柚は周りをキョロキョロと見回す。
「ああ、柚のもったいない願いのお陰でな」
む、と柚は公園で見せたような不機嫌な顔で頬を少し膨らます。
「ひどいな、元享受者。こんなに可愛い子の恩返しをもったいないと言うとは」
「だけど、精霊ならこいつの境遇ぐらい分かるだろ」
「分かるが、願うのは本人だ。本人が本当に叶えて欲しい小さな願いを聞くのが案内人でもある俺たち精霊の役目だからな。俺がどうこう言える事じゃぁない」
「あーもーっ」
こたつに肘をつき、頭を抱える。
「柚、自分の境遇をよくするという考えは思いつかなかったのか?」
柚はただ、ふるふると首を振る。無欲というものは時に罪だ。
「状況が全然進まない……」
ガクリ、と俺は肩を落とした。
すると、柚が俺の横に近寄り、俺の顔を見上げて、
「……めい、わく?」
その一言だけを言った。
迷惑なはずがなかった。
◆柚/三‐一
「柚、俺は決して迷惑なんか思ってない。むしろ嬉しいくらいだ。だけどな、俺がうれしくなっても、この願いを叶える権利を持つ柚が幸せにならないと意味がないだろ?」
聡さんが柚の頭に大きな手をのせる。初めて出会ったときに撫でてくれた手は今では軽いように感じた。
聡さんの眼を見る。今まで見せたことがない、眉を寄せて無理矢理優しそうに作った顔。
「俺は心配なんだよ、柚のことが」
聡さんが心配していることは分かっていた。だけど、柚は――
「そう、それに――」
出来るときに、恩返しをして、そして――
「それに、この生活がずっと続くとは限らないんだ」
壊れるときに、未練が無いように、したかった。
数秒間の沈黙。聡さんは柚の言葉を待ち、柚は、最後の願いを決めた。
「精霊さん」
「なんだ?」
「柚、最後の願いを決めました。最後の願いは、」
願おうとした時、また聡さんの手で口を塞がれた。
「待て、……何を願う気だ」
聡さんの声が耳元で響く。必死にその腕を振りほどき、立ち上がって叫んだ。