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自己嫌悪

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 先生はそう言って私の目をじっと見た。その時、私の中で引っ掛かっているものが何か分かった。この先生は私とは全く正反対なんだって。優しい言葉の裏に絶対の自信を感じる。こういう人に果たして人の弱さが分かるのだろうか。弱さを持っていない人に弱さを理解することができるのだろうか。私はそう思いながら自分の症状について話した。すると先生は、
「そうですか。自己嫌悪ですか。きっと何かそうなる原因があるはずです。幼い頃のトラウマかも知れませんし、最近あったことかも知れません。それを調べてみましょう。」
 と言って、これからやる催眠治療の説明と今まで何人も私のような患者を治療した経験があることを説明してくれた。そして私は先生に言われる通りに目を閉じた。
 目が覚めた時、先生はとても困った顔をしていた。私が寝ている間に何かあったのだろうか。それとも、自己嫌悪の原因が治る見込みの無いものなのだろうか。先生にそのことを確かめようと何度も喋ろうとしたのだけれど、まだ寝ぼけているのか口が上手く開かない。私はじっと先生を見詰めたままだった。すると先生は困った顔のまま私に質問をした。
「ではいったい何が不安なのですか。」
 私は何を聞かれているのか良く分からなかった。話の流れが全く見えていなかった。答えに困っていると、なぜか口から勝手に言葉が出てきた。しかし、自分では何を言ったのか分からなかった。それでも先生にはちゃんと伝わったらしく、また新たな質問をしてきた。
「そうですか、困りましたね。では、あなたが起きている時に言ったことは真実ではないと言うことですか。」
 先生はいったい誰と会話をしているのだろう。私と話しをしているみたいだけど、答えているのは別人みたい。でも、この部屋には先生と私以外誰もいない。もしかしたら、私はまだ寝ているのかも知れない。夢とは少し違う感じだけど、脳の一部だけが起きてしまったって考えれば何となくは納得できる気がする。私は先生を信じてもうしばらくこのままでいることにした。
 先生の質問は続いた。相変わらず自分が何と答えているのかは分からない。先生の質問を長々と聞いていたら、だんだんと眠くなってきてしまった。でも、本来私は寝ているはずなのだからと思い、そのまま眠ることにした。
「気分はどうですか。」
 私は先生の言葉で目を覚ました。
作品名:自己嫌悪 作家名:もとはし