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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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マ界少年ユーリ!

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第1話 マ界のマの字はオカマのマ3


 ルーファスに保護されたユーリ。
 互いに簡単な自己紹介を済ませて、とりあえず学院近くの飲食店にでも行こうということになった。
 ユーリはルーファスの背中を追いながら考え事していた。
「(さっきのビビちゃんが約束してたのって、この?ルーファス?だったのかな。でも目の前にいる?ルーファス?は約束なんてしてないようすだし、もしかして忘れてるだけ?)」
 ルーファスは難しい顔をしていた。
「(なにか大切な約束があったような気がするけど……覚えてないってことは、忘れてもよかったことなのかな)」
 ええ、すっかりルーファスはビビとの約束を忘れてます!
 だが、ここでルーファスは思い出した!
「そうだ、ローゼンクロイツに用事があったんだ」
 そっちかい!
 ビビとの約束は忘却の彼方だった。
 ルーファスの口からその名を聞いて、ユーリは瞳を大きくビックリ仰天。
「ローゼンクロイツ様とお知り合いなんですか?(まさか、こんな凡人以下の人間と?)」
「うん、生まれたときからの幼馴染だよ(あれ、ローゼンクロイツのこと知ってるんだ?)」
「はぁ」
 思わず素が出た。ですます口調の仮面がもろくも崩れ落ちた。
 すぐにユーリは仮面を被り直した。
「ええと、幼馴染とはどの程度のレベルのでしょうか?(ありえない、幼馴染だなんて、憧れのシチュエーションじゃない!)」
「ローゼンクロイツが孤児なのは知ってる?」
「はい、こちらの暦だとアルティエル暦982年1月1日生まれ15歳、血液型はAB型。とある修道女に拾われ、ケルトン魔導幼稚園卒、アルカナ学園卒、今はクラウス魔導学院に通う四年生です。ネットではファンクラブも存在していて、最大のファンクラブは薔薇十字団、もちろんアタシも入会してます!」
「あ、く、詳しいね(この子もローゼンクロイツのストーカーなのかな。薔薇十字団って二年生のアインが立ち上げたんだったよなぁ)」
「はい、ローゼンクロイツ様は神ですから!(ああ、そんな神と同じ学院内にいるなんて)」
 ルーファスは苦笑いを浮かべながら話を戻すことにした。
「実はさ、ローゼンクロイツを拾ったのは私の母だったんだ。それで私とローゼンクロイツは幼いころは一緒に育てられたんだ」
「一緒に入浴もしたんですか?」
「小さいころはよく入ったよ、今は絶対にないけど(ローゼンクロイツはそっち系じゃないけど、それでも一緒にお風呂に入るのはちょっとなぁ)」
「あはは、そうなんですか(コロス、ローゼンクロイツ様の裸体を見ただなんて、その眼を抉ってカラスのエサにしてやる。……嗚呼、でもローゼンクロイツの裸を見られるなんて……)」
 ユーリの鼻からツーッと赤い液体が伸びた。
「大丈夫、鼻血出てるよ?」
「えっ、だ、大丈夫です。持病でたまに鼻血が出てしまうんです(ウソだけど)」
 慌ててユーリはティッシュで鼻血を拭いた。
 ルーファスは心配そうな顔をしてユーリを見つめている。
「本当に大丈夫? さっきは貧血で今度は鼻血で、あまりムリしちゃダメだよ。私にできることがあるなら、なんでも言ってね?」
 ――なんでも言ってね。
 そのフレーズを耳にしたユーリは微かに笑った。邪悪な笑みだ。
 急にユーリはルーファスの胸に飛び込んだ。
「本当になんでも言っていいの?」
 ユーリは潤んだ瞳で甘えた表情を作ってルーファの顔を覗き込んだ。
 生唾を飲み込んだ音がした。
「ぼ、僕にできることならなんでもするよ」
「じゃあ、アタシのために死んで♪」
「できるかーっ!」
 ルーファスは思いっきりユーリを突き飛ばした。
 ユーリショック!
 ここ最近ショックなことが多すぎる。
 しかも、今回のショックはユーリに絶望の烙印を押し付けた。
「……ありえない(絶対に〈魅了〉の力を使ったハズなのに、ビビちゃんを落とせなかったときから、まさかと思ってたけど……アタシただの人になっちゃった)」
 床に両手をついて落ち込んでいるユーリを心配そうにルーファスは見ていた。
「押しちゃってごめんね、大丈夫だった?」
「大丈夫じゃない」
「えっ、どこかケガしちゃった?」
「……違う(サキュバスが〈魅了〉の力を失ったら、なにが残るっていうの?)」
 サキュバスは夜魔(やま)系の魔族である。妖艶な種族として知られ、生まれたときから他を〈魅了〉する力を持つ。〈魅了〉とはつまり、他を自分に惚れさせ、思うが侭に操る一種の魔法だ。
 その力をユーリは失ったのだ。
「ありえない、ありえない……アタシは……(落ち着けアタシ、アタシはユーリ・シャルル・ドゥ・オーデンブルグ、超大金持ちのオーデンブルグ家の長女。そうだ、まだアタシには金という世界を動かせるツールを持っている!)」
 急に元気を取り戻したユーリはビシッと立ち上がって、ポケットからサイフを取り出そうとした。
「愚民ども、この黒く輝くクレジットカードを……っない」
 サイフがない!
 ユーリショック
 あまりの絶望にユーリは廊下で野垂れ死んだ。
 ずっとユーリを身も守っていたルーファスは難しい顔をしている。
「(この子、頭イタイ子じゃないのか……)」
 元気になったり、落ち込んだり、一連の行動は他人から見ると奇行だった。
 ここでルーファスはハッとした。
「まさか……(僕が押し飛ばした拍子に頭を打って、頭が可笑しくなった)」
 ルーファスショック!
 慌てふためくルーファスはユーリを抱きかかえた。
「起きて、死なないで、僕を殺人犯にしないでーっ!」
「あはは、もういっそのこと殺して……」
 ユーリは死ぬ気満々だった。
 前の学校に居られなくなって逃避行。知らない土地で無一文。頼れるのはルーファスだけ。
 頼りにならないよ!
 絶望だった。
 ユーリは眼をつぶって幼いころの記憶を辿った。
 優しかったお兄様。家族の中で唯一ユーリに理解を示してたお兄様。
「(嗚呼、お兄様……貴方は今どこで何をしておられるのでしょうか。貴方だったら、今のアタシにどんな優しい言葉を……抱きしめて欲しい、愛して欲しい、お兄様に逢いたい)」
 ユーリの記憶、優しくしてくれた長男のアーヤは、幼いころに旅に出てしまって、今でも行方不明のまま。回想に出てくるお兄様の顔は、いつものっぺらぼうで顔が思い出せない。こんなにも想っているのに、お兄様の顔がどうしても思い出せなった。
「(ったく、クソ兄貴の顔は思い出せるのに)」
 次男のクソ兄貴の顔を思い出したユーリは、ついでに数々の嫌がらせされたことを思い出し、頭に血が上ってくると身体のそこから力が湧いてきた。
「(なんか腹立ってきたら生きる希望がでてきた。オーデンブルグ家の家訓その三――金がないなら自分で稼げ)」
 ついにユーリは復活した。
「よし、まずは(ローゼンクロイツ様の友達になって、ビビちゃんとも仲良くなって、サキュバスの力も取り戻して、新しい生活をはじめるために住む場所とお金、なにかぼろ儲けできる商売もはじめなきゃ。代々商人のオーデンブルグ家の末っ子を舐めるんじゃないわよ!)」
 ユーリはルーファスの瞳を見つめ、可愛らしい顔でお願いの猫なで声を出した。
「あのぉ、アタシこの学院に編入したいんですぅ」
「はい?」