小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

テッカバ

INDEX|41ページ/72ページ|

次のページ前のページ
 

 何事も無かったかのように黙って講義を受け続ける女の子。私は無意識のうちに彼女を「苦手な人リスト」に加えて、講義で見かけてもなるべく離れた席に座るようになった。――――



 ――そしてあの事件、高槻が死んでから三日後のこと。私は一人、生協の学生食堂にて昼食をとっていた。
 三日前まではかりんや他の友達と一緒に食べていたお昼ご飯。知り合いが、一緒にどう? って誘ってくれることはよくあるんだけど、何となく気が乗らなくて断っている。みんなと食べる気にはならない癖に、一人で食べるのは味気ないなどと考えている自分の生意気さがじれったい。
 かりんは今頃どうしてるのかな――?
 世間では大学で起きた殺人事件を大々的に報じ、連日門のところにマスコミが大量に集まっている。犯人が現職の国会議員の娘だというのも、好奇の目に拍車をかけているのだろう。かりんのお父さんは事件発生の当日の内に辞職会見を開いた。
「被害者とそのご遺族には本当に、何と言って良いのか分からず……世間をお騒がせして、真に申し訳ありませんでした」
 涙ながらに頭を下げるかりんの父親の姿は立派なものだったが、それを報道する記者たちは揚げ足を取るような質問ばかりで、“殺人犯の父親”というレッテルを彼に貼るのに必死だった。私自身も、かりんのした事は父親が頭下げて辞職したぐらいじゃ済まされないことだと思うが、あまりに強すぎる風あたりに釈然としない。
 やっぱり殺人なんて割に合わないのだ。私は正直、高槻を殺そうとした時にその後の自分の事は考えていたが、家族や友人がどうなるかまでは考えていなかった。今、かりんの家族はどんな気持ちなんだろう? 悲しい? 申し訳ない? せめて、あんな子生れなければ良かった、なんて考えていない事を祈りたい。
 そして、そんな残された人として事件を憂うには彼女と遠すぎて、赤の他人として傍観するには親し過ぎる私が居る。私に出来るのはただ、目を背けずに今後のかりんと家族を見守ることだけで、実質的には何もしていないのと一緒のそれは、何もしないより辛かった。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎