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テッカバ

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 授業分野は地理。小学生レベルの質問をして、慣れない場所で講義を受ける新入生の緊張でも解こうと考えたのだろう。最前列付近に座っていた一人の女の子を講師が指した。
 指されたのはちょっと長めのボブカットをした小柄な子。ぱっちりとした愛嬌のある目で、寡黙そうな色の薄い唇をしていた。何かアルファベットが大きく描かれた服の上に地味な色の上着を着て、ボーイッシュなジーンズを履いていた。靴まではここからじゃ見えない。
 やや垢抜けない感じが逆に好印象で、知らず知らずの内に私はじっくりと彼女を観察していた。動物で例えるならシマリスだろう。何故かこんな簡単な質問になかなか答えない。思った通り、無口な質なのだろうか?
 そしてやっと口を開いた。私も心の中で彼女と合わせて回答する。

 ――日本海。
「……食塩水」

 ――…………。
 間違ってない。間違ってはいないんだけど……何か、間違ってる。
 講師も何とリアクションを取っていいか、戸惑っている。苦笑いを始めた講師と、頬杖をつきながら無表情に見つめかえす女の子。両者の間の微妙な空気が教室に広がって、全体を飲みこんだ。
 そんな周りの反応も気にせず、指された子は続ける。
「より正確に言うには塩化ナトリウム水溶液、NaClaq。……と言うか、もっと正確にポイントを示して下さい。マグネシウムイオンやカルシウムイオンの含まれる割合が、海域によってかなり違うんですよ」
「…………」返す言葉の無い講師。
 広い教室中誰も微動だにしない。私は画面の中の静止画を眺めているような気分になった。
 当の発言者本人はようやく異変に気がついたらしく、辺りをキョロキョロと見回した後、ペンを持って板書写しに戻った。
「えーっと……、まあ日本海ですよね」
 無理やり事態を収束させる講師。再び黒板に向き直った彼の背中からは、社会のタブーに触れた小学生のような焦りが感じられた。
「すごいね……誰だろう? あの子」
 かりんが前を向いたまま、誰となしに言う。流石のかりんもこの時ばかりは具体的な反応が思いつかず、「すごい」の一言でしか言い表わせないようだった。
 確かにすごい。質問側の意図をあれだけスルー出来るずぶとさとか、予想の斜め上を行く回答とか……。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎