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10:少女の願い と 苦悩の信念



 5回裏。スコアは5-4。まだ最終回を残しているが、日我好はそろそろ追いついておきたいところ。

 この回の先頭バッターは豊橋君。前打席は、粘りに粘った末に意表をつく引っ張るバッティングで、その後の得点に結びつけた。ランナーのいない今、彼は得意の流し打ちを決めてやろうと、うずうずしながら左バッターボックスでバットを構えている。

 マウンドの上野君も、この打者が流し打ちに拘泥していると気づいているようで、サードの井坂君に少し3塁線に寄ってライン際の当たりに注意するよう指示を出した。

 5回裏、両チームの陣容が整い、上野君は振りかぶって投球する。
「ストライーッ」
やや真ん中に近かったが、気持ちよく低めに決まるストライク。初球ストライク先行で、上野君はうなづきながらボールを受け取る。

 続く2球目。
「ファウル!」
内角の高めに切り込んでくる球を、やはり流し打ちにするがライン外。これでツーナッシング、豊橋君は2球で追い込まれる形となった。

 3球目。
「ボール!」
さすがにここは1球外して1-2。

 4球目。
「カキィン!」
外角の高めの球を豊橋君はうまく流し打つ。打球は左中間を深々と破り、かなり奥のほうでバウンドする。あらかじめ流し打ちを警戒していたセンター藤井君がすぐに追いついたが、豊橋君はすでに2塁を陥れていた。

 豊橋君お得意の流し打ちで、ノーアウトランナー2塁となる。さあ、日我好はここから追いつくことができるのか、それとも能信が守り切るのか。

 続くバッターは、クリーンナップの一角でもある3番、ピッチャーの中本君。最終回を楽にするためにも、ここで結果を出しておきたいところ。彼はやる気十分とばかりに、バットの感触を確かめてからバッターボックスに入り、第1球を待ち受ける。

 対する上野君は、2塁ランナーを警戒しながらセットポジションを取り、第1球を投げた。
「キン!」
「ファウッ」
初球から積極的に手を出していくが、打球は後ろに逸れてファウル。

 ワンストライクからの2球目。
「カッ」
バットにかすった球は、これも後ろのネットに当たってあっという間にツーストライクとなった。

 追い込まれてからの3球目。投げられた球は、絶好球とまでは行かないものの高めに浮いた手頃な球だった。中本君ほどのバッターなら、ゆうゆうとヒットにできる球。

 しかし、中本君は気付いていなかった。自分が思っている以上に疲れていることに。5回を投げきった疲労と、この後の最終回も投げるというプレッシャー。それらに精神も肉体もむしばまれていた。中本君はいつも通りの感覚でバットを振る。しかし、そのスイングには全く力が入っていない。それどころか、あらぬ場所を振り抜いている。バットは虚しく空を切り、中本君は体勢を崩して倒れ込む。チャンスを前にして頼れる強打者が、あえなく3球三振となってしまった。

 中本君の意外な三振によって迎えた打者は、こちらも頼りになるキャプテンであり主砲の広尾君。この試合では三振こそあったが、センター前にヒットも放っている。ワンナウト2塁。まだまだここから反撃も十分可能だ。

 広尾君は先ほどの中本君の三振を、疲れからきたものだと見抜いていた。だが、彼がリリーフの投手に6回を任せるような男ではないこともわかっていた。監督が止めようと、腕がちぎれようと、あいつは最終回もマウンドに上がるだろう。

「……ならば、今のうちに追いついておきたい」

 名投手上野君と、引っ張りを警戒してシフトを組んでいる堅固な能信守備陣を前に、広尾君はそう考えていた。

 その広尾君に対しての1球目。

(……そこだ!)
外角の厳しい球を広尾君は半ばバットを置きにいくような感じで打ち返した。

 打球は1、2塁間を勢いよく転がっていく。

 広尾君は、能信守備陣が引っ張りを警戒して、全体的にレフト方向にシフトを組んでいることに目をつけた。広尾君は特に引っ張ることに執着するバッターではないが、4番という打順と大きな体格が能信ナインにそう思わせたのだろう。だが、そんなシフトをすれば逆にライト方面にすきができる。広尾君はうまくそこをついて、ライト前に抜けるような打球を放ったのだ。

「豊橋の足なら、これで生還できるだろう」

 同点を確信して広尾君は走り出した。

作品名:熱戦 作家名:六色塔