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熱戦

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 セカンドの豊橋君とショートの佐藤(優)君、2人がそれぞれの判断で動いたことによる奇跡のようなダブルプレーだった。豊橋君は打球を取れずとも止めることは可能と判断し、とっさに打球の前に飛び込んだ。目論見通りに体に当たったその打球は、たまたま外野の中継に入ろうとしていた遊撃手、(優)君の近くに転がった。(優)君はその転がる球に反応して素早く拾い上げ、2塁ベースを踏んでから即座に1塁へ送球したというわけだ。

 日我好ブラッドサックスは、ある意味では能信ウォークライズと真逆の方針を持つチームと言ってもいい。
 今年の能信ウォークライズが入念にシートノックなどを行い、守備力や選手間の連携をテーマに猛練習をしてきたチームなのは前述した通りだ。一方の日我好ブラッドサックスは、どちらかと言えば選手個人の能力や判断といったものに重きを置いている節がある。選手たちは、足が速かったり流し打ちだったりといったように何らかの一芸に秀で、それを生かしたプレーを行っていくチームだ。けん制球が得意な中本君、ムードメーカーの寺井君、安打製造機の山田君、流し打ちの豊橋君といったふうに。もちろん能信にも自己犠牲の鬼である藤井君などがいるが、自分の個性や奇抜なアイデアを遠慮なく出せるチームという点では、日我好ブラッドサックスのほうに軍配が上がるだろう。

 先ほどのプレーもそうだった。せめて体には当たるかもという豊橋君の判断、それによって転がった球を素早く処理した(優)君の判断。練習ではなかなか行き届かない個々のアイデアがうまく連携し、それを試合本番に即興の形で実行できる雰囲気。厳しい練習に裏付けられた能信の鉄壁の守備には及ばないが、しなやかで弾力性に富んだ発想を皆が持ち合い、場面場面で機転の利いたプレーができる日我好だからこそ、このダブルプレーが生まれたのだろう。

 そんなアイデアが豊富で個性的な選手が集まる日我好ブラッドサックスの中でも、特にキャプテンである広尾君の存在はとても大きいものだ。彼はチームで最も大きな体格の持ち主で、主砲として打撃でチームを引っ張りながら、先のファインプレーのようにサードの守備でもしっかりと結果を出せる選手だ。それだけでなく、彼は個性的過ぎるチームメイト一人一人を注意深く見守って話を聞き、その個性を伸ばせるよう協力したり、時には行き過ぎを止めたりすることもある。また、チームメイトの意見を集約して、監督やコーチを始めとした周囲の大人たちへ提案して話し合いの場を設けたり、調整役を買って出たりもする。こういった能力はいわゆる縁の下の力持ち的で、地味だと思われるかもしれない。だが、チームとしてはとてもありがたい存在であることは間違いない。それを担っているのがキャプテンである広尾君なのだ。


作品名:熱戦 作家名:六色塔