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熱戦

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序:切られる火蓋



 7月16日(日)。

 初夏の焼け付くような日差しが、早朝から容赦なく降り注ぐ。今日の試合に華を添えるかのような雲のない快晴。これから、浦吉市立浦吉南小学校の校庭で市内の少年野球チーム、日我好(ひがよし)ブラッドサックスと能信(のうしん)ウォークライズの練習試合が行われる。

 試合開始は午前10時。それまで、両チームともに自身の本拠地でランニングやキャッチボール、トスバッティングなどを行い、心身の士気を高めてから決戦の地にやってきていた。この2チームの対戦成績は直近5試合で、能信が3勝2敗と勝ち越している。逆に考えれば3勝2敗、ほぼ互角と言っていい。しかもこれは、昨年の試合データなのである。

 この両チームは昨年まで、青海君、三澤君という偉大な選手を擁していた。青海君は「日我好の青海」という二つ名で市外にもその名をとどろかせた名投手であり、三澤君も「能信の怪童」という呼び名でホームランを連発した素晴らしいバッターだった。
 しかし彼らは、昨年、小学校を卒業してしまった。2人は現在、浦吉中学校の野球部でチームメイトとなり、お互い技術を高め合う仲間となっている。

 そんな偉大な2人を失った形で今年を迎えた両チームは、冬から春にかけて猛練習を重ね、その才能を思う存分に開花させる時期を待ちわびていた。お互いにチームの柱を失い、それを補って余りあるほど血のにじむような練習を積んできた2チームだ、過去の勝敗などもはや当てにはならないだろう。また、今日の1戦は、今後の市内のリトルリーグや県内の大きな戦いなどを占う非常に重要な戦いとなる。練習試合とはいえ手を抜くことはないはずだ。両チームともに手加減を一切することのない本気のぶつかり合いが予想される。

 選手たちは大好きな餌を目の前にした獣のように、念入りにチェックを重ね続ける。スパイクのひもをきつく縛り、バットの握りの滑りを止め、グラブの具合を確認し、肩のできあがりを確かめ、入念なストレッチを行い、小声でサインの確認をする。そんな光景が1塁側と3塁側の両方に見られる中、刻一刻と試合開始の時間が迫ってくる。

「どうも。お手柔らかにお願いいたします」
「こちらこそ。どうぞよろしくお願いします」

 両チームの監督が試合前にあいさつをし、握手をする。にこやかな表情だが、その顔つきには自信がみなぎっている。時間をかけて練習に取り組んできた自身のチームに対する信頼の現れだろうか。

 その少し後、スターティングメンバーが提出される。まず、日我好ブラッドサックスは以下の通りだ。

 1番 キャッチャー 寺井君。
 2番 セカンド 豊橋君。
 3番 ピッチャー 中本君。
 4番 サード 広尾君。
 5番 ファースト 山田君。
 6番 レフト 村山君。
 7番 ショート 佐藤(優)君。
 8番 センター 佐藤(英)君。
 9番 ライト 神楽坂君。

 そして、能信ウォークライズは以下。

 1番 ショート 富山君。
 2番 センター 藤井君。
 3番 キャッチャー 登坂君。
 4番 ファースト 赤井君。
 5番 サード 井坂君。
 6番 ライト 本山君。
 7番 セカンド 畑中さん。
 8番 レフト 糸屋君。
 9番 ピッチャー 上野君。

 試合時間となり、両チームのスターティングメンバーがダイヤモンド上に勢ぞろいする。

「よろしくお願いしまーす」

選手が帽子を取ってあいさつを行い、チームのキャプテンである日我好の広尾君と能信の登坂君の両名が中央に歩み出てじゃんけんをする。何回かのあいこを経た後、登坂君が勝利して能信の先攻を宣言した。


 かくして、熱戦の火蓋は切られたのだった。


作品名:熱戦 作家名:六色塔