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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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その124 うどん屋の頑固親父の手打ちそば



年越しそばの準備をしないといけない時期になりました。
僕はそばが大好きですから、毎年必ず食べます。
わざわざそばだけ夕食の後に準備するのも面倒なので、近年は鍋をした〆にそばを入れる程度ですが、今年は鴨鍋の出汁でブリしゃぶの予定です。
だからスーパーで売ってる一玉50円の袋麵じゃガッカリだし、どこかで買って来てずっと仕舞っておいた取って置きの乾麺を、ついに取り出すことにします。
どこで買って来たかって?
それは日本全国津々浦々、夫婦で美味しいそばを求めて彷徨い、お土産に買って来るご当地麺なのです。

僕にはそばに拘りを持つ、あるきっかけがありました。
“蕎麦の実”がどのような環境で栽培され、粉が引かれ、打たれて、茹でられ、盛られて出されているのか、一連のストーリーを気にするようになったんです。
それは、手打ちそばにこだわりを持ってた、あの親父さんに会ってからのことなんです。

昔、幹線道路沿いのマンションに住んでいた頃のこと。
周辺には飲食店が多く、お気に入りの居酒屋や、昼間からつい足を運んでワインを注文してしまう窯焼きピザ屋など、外食に関しては手に余る環境でしたね。
隣にも同じようなマンションが建っていて、その一階に『更科うどん』という看板を出している店がありました。(そばじゃなく、うどん屋なのに更科でした)
テーブル二つとカウンターに6席ほどだけの狭い店で、うどんは天ぷら、キツネ、月見、ざるなどが5種類ほどと、ご飯ものは稲荷寿司とエビ天丼だけのメニューです。
まあ引越し当初は、隣なのでなんとなく入店したことはあるんだけど、メインのうどんは注文したことが無い。
はじめて行った時に食べた天丼がたった500円で、甘辛いたれがかかった大きなエビが三尾も載った絶品で、以来、お得感からそれ一択だったんです。
それからしばらくして、周辺のお店をいろいろ知るようになると、そのうどん屋には行かなくなりました。

ある日、飼い犬の散歩でマンションを出てすぐその店の前を通ると、そこの店主が歩道に水を撒いていたので、軽く会釈したんですが、
「あ、久しぶりですな」と笑顔で話しかけて来られました。
「あ、どうも」
僕はカウンター席で食べると、店の人としゃべる癖があるので気安く見えるのか、店の人からも声をかけられることがあるんだけど、暫くその店で食べてなかったので、今回は少し気まずい気分だ。
「最近見えんから、どうしてはんのかいな?って思っとったんですわ」
「ええ、暫く出張が多かったもんで」
「犬の散歩でっか?」そう言ってこの親父さん、うちのベスの頭を撫でようとしたけど、ベスはバックステップでその手をかわした。
「なんやお前~、釣れんやっちゃなぁ」
「部屋飼いなんで、人見知り激しいんですわ」
「ははは、そりゃストレスたまるわな。散歩で発散させんとな。俺も柴犬飼うとんのですわ」
「そうですか」
「せやけど、もっと大っきいで、うちの」
うちのベスも体重10キロある普通の大きさなのに、これより大きいって(それ柴犬か?)
「色は何色ですか?」
「茶芝や。いわゆる本シバっつうやつやな」
(本シバ? どんなんが本シバ? 聞いたことないな。でかい犬種?)
「残りもんのうどん食っとるさけぇ。よう太っとるんや」
「ああ、なるほど」
「せやけど最近『手打ちそば』始めたんですわ」
「え? そうなんですか」
僕はそばが大好物なので、少しだけ、ほんの少しだけ興味がある顔をしたと思います。
「それがな、手打ちに拘っててな。やり始めたら面白うてな」
「ここで打ってんですか?」
「そうやねん。また食べに来てえや」
「それは楽しみですね。そうします」
そんな会話をしてその場は別れた。

後日、(今日は何食べようかな)とか考えながら、ふらりと店の前を通ると、店の中にいるその親父と目が合ってしまった。もう入るしかないだろ。
「そば、やってますか?」
「おう、やってんでぇ」
「じゃそれ、天ぷらで」
「そばは『盛り』だけや」
「そうなんすか」
僕は壁に貼られたメニュー表を見ながら、カウンターの丸椅子に座った。確かに『盛りそば 七〇〇円』と書いた新しい貼り紙が追加されていた。
「じゃ、盛りで」
「天ぷらだけ揚げたろか? 一匹100円で」
「じゃ、3匹お願いします(うひょひょww)」
店には僕の他に3人の客がいた。そのうちの一人が、盛りそばだけを食べていたけど、僕が天ぷらを注文したのを見て、「えっ?」って顔されたので、(その手があったのか)と後悔された様子だった。僕はちょっと優越感。
「どこでそば打ち習ったんですか」
「いやな、うどんは打ち方の修行しとったんや。せやけど、この店のうどんは仕入れとんのんや」
「製麺所の? それ企業秘密ちゃうんですか?」
「そやな。うちの店は機械打ちや!って言わへんな。普通」
「はははは、そうでしょ」
「せやけど、一日100人前も手打ちは無理やわ」
「ほな、そばはどうしてるんですか?」
「10だけ。一日10人前だけ限定や。それくらいやったら手打ちできるし、特別や」
「ほう、それは楽しみやわ」
確かに『10食限定』と貼り紙にも書かれている。