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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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その122 ネガティブな結果



最近ようやく、海外に行く際に、Covid-19(新型コロナ)のワクチンの接種証明書を持参したり、PCR検査を出入国前に受けることが、義務ではなくなりましたよね。
うちの部下は、海外への出張が多いので大変助かります。
もっと以前は、シンガポールの出張前には、エイズの検査なんかが義務付けられてまして、僕も病院で受けたことがありましたっけ。もちろん「陰性」でしたよ。

様々な国へ、というよりその先のお客様の会社に訪問させていただく際に、国籍は重要で、日本人はどこでも受け入れてもらえるもんですけど、中国籍社員なんかは先方から拒否されることもあります。
変な人を入れたくないと言うんでしょうけど、たとえ日本人だったとしても、作業従事者は大卒以上に限定している顧客までありますし、その為に僕も英文の卒業証明書を出身大学に申請したりして、準備には手間がかかるもんです。
それは企業機密が多い業務ほどそうなります。

薬物の検査もたまに必要です。海外顧客によっては訪問者の入構条件として、そんな証明書の提出を求められるってことがあるんです。
その薬物とは、いわゆる『ヤク』と呼ばれるあれですが、社員に「それ、受けて来てください」とお願いしても、皆「はい、解りました」って言ってくれるから安心です。
身に覚えのある人は、そんな検査さえ拒否するに決まってますからね。
こういう検査はどこでもやってくれる訳じゃないようで、社員を兵庫県芦屋市の某施設までわざわざ出向かせています。
ところが以前、こんなことがあったんです。

うちの総務部から一本の電話。
「アメリカ出張予定の小田さん、薬物検査に引っかかったみたいよ!」と。
「うそ!? 小田さんが?」
その小田さん(仮名)、ロン毛で無精ひげ。結構ワイルドな見た目の人です。なんかイメージ出来てしまう。
その彼の検査結果書類が、会社に届いて大騒ぎになっているようです。
薬物ってのが何なのか、僕は詳細を知らされないまま出先から呼び戻され、社長室で緊急ミーティングとなりました。
その場には僕以外、総務担当課長と事実を知った担当者1名、そして社長と役員2名が出席し、他部課の管理職にさえ内緒の招集でした。

まず、「薬物の乱用者を雇用していていいはずがない」という意見が出ました。
「企業としてどうするべきか」とか言いながら、「人としてどう行動するかです!」とか言って、皆さん事の重大さに少し酔ってるような気もしました。
そんな中僕は、すでに小田さんをアメリカに送り出す準備が完了していたのに、今更出張者を変更して間に合うかが気がかりだったのですが、「そんなことより、この人物をどうするかの方が重要だ!」という話合いです。
解りますよ。それはごもっともです・・・でも業務が。
この小田さんは、今までに何度も海外出張を経験されていましたので、(まさか)って思いがぬぐい切れないというか、(よく今までバレずに来たな)という思いもして複雑でした。
「海外でもそういう薬物を購入したりしてたんだろうか?」という疑問も湧きました。

東南アジアで薬物関係で逮捕されると『死刑』になる確率が高いと聞きますので、他社さんではそういう注意喚起もされているそうでした。
でも僕の事業部では(まさか)の思いが先に立って、そんな教育したことが無かったんです。
事実を本人に確認する以外、次の手はないのですが、その前に「検査結果書類を警察に届けて相談した方がいい」という話になりました。
「まず私が本人に確認する」と申し出たのですが、「逃亡するかも」って言うんです。「警察が先だ」って。
いつもは売上とか業績については僕に頼りっきりのくせに、この時は上からきっちり命令されました。
もうみんな、小田さんの逮捕~解雇という道筋を想像して疑いません。
信用したいけど、僕ももう、どうすることも出来ません!

社長の指示で、総務課長と僕が警察に行くことになったので、僕は一応、その検査結果の書類のコピーを一枚取りました。
その時はじめてその書類を読んだのですが、すべて英語で書かれていて、各項目にチェックが入れられ、その下の方の『Result(結果)』欄に、シンプルに検査結果が見やすく記載されています。

『Negative(ネガティブ)』と。

あぁ、正にネガティブな結果・・・・・・え?・・・え??・・・え???

「待って!」僕は社長室に駆け戻りました。
「Negativeは、陰性ですよ! 問題ないってことです」
つまり『Positive(ポジティブ)』の方が『陽性』で、薬物反応が出たって意味なんです。

そりゃそうでしょ。もし陽性反応が出ようものなら、小田さんは犯罪者ですよ。
そうなったら、検査機関から警察に通告されるに違いないでしょ。
よく考えりゃ、誰でも分る事でした。

検査結果の書類なんか英語で読んだことがない総務担当者が、単語の意味を理解せず、雰囲気で完全に勘違いして大慌てしていただけで、報告を受けた総務課長も、普段はそんな珍しい書類の中身まで確認していないので、英語表記の意味を知らずに、そのまま社長に「アウトです」と報告していたって訳です。
その後、それに目を通した誰もが、そのことに気付いていなかったなんて。
ネガティブの意味。紛らわしい・・・
僕自身の経験でも、エイズ検査後の書類に『Negative』と記載されていたのを見て、一瞬だけドキッとしたけど、横に『Not Detected(検出無し)』とも記載されていて、ホッとした思い出があったから気付けたけど、まさかそれと同じ勘違い。
こんな茶番に一同脱力です。

みんなポジティブでいられなかったことにネガティブになって、この事実は10年以上ずっと内密にされています。
「もう時効」って言うのも変ですけど、バラしてしまってもいいでしょ。