小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

INDEX|54ページ/85ページ|

次のページ前のページ
 

その118 松茸のすき焼き



松茸ってよく食べますか?
・・・って、おいおい。
なんかお金持ちしか食べられないような印象ですけど、そうでもないですよ。

秋の味覚の王様。9月頃になるとスーパーの野菜売り場に、2~3本入りのが数千円で並び始めますよね。
グラムによっては、1000円しないものもありますね。
お吸いものに松茸ご飯くらいなら、これでも十分じゃないかって思います。
いわゆる輸入松茸っていうやつで、中国や朝鮮産の他、トルコ、カナダ産てのも多いです。
でも日本の松茸とは、少し違うように思います。
まず見た目、中国や朝鮮のものは、日本のに近い色合いをしてますが、形がやや細いし傘も薄いのばかり。
トルコ産は形が揃ってるけど小ぶり、カナダのも小さいけど、色が白すぎるのが特徴。
そしてどれも特に違うのは香りです。
松茸の一番のウリは、香りだと思うんですけど、海外産はどれもちょっと弱めです。
輸入に時間がかかって、新鮮じゃなくなってしまってるってのがその理由だと思いますが、それは残念な点ですよね。
やはりスーパーの売り場で松茸を見付けても、あまり香りがしませんしね。
近寄って周囲の空気に鼻をクンクンすると、ようやく香るくらいです。
パックを手に取ってダイレクトに鼻を近付けると、(うん、懐かしい)と思います。

僕が懐かしいと思うのには理由があります。
実は父方の田舎が、全国的に有名なブランド松茸の産地で、じいさんが毎年大量に出荷していたからです。
だから僕は小さい時から、松茸っていう高級食材を飽きるほど食べていました。
本当に飽きるほどです。
僕は松茸の土瓶蒸しが一番好きです。鱧(ハモ)と松茸の組み合わせに柚子が香り、三つ葉が引き締めてくれる感じが。単にそんなお吸い物でもOKです。
その次はシンプルに焼き松茸。指で割いて塩を振って焼いて、そのままスダチを絞るかポン酢を付ける。
松茸ご飯は、出来るだけサイコロ状に切った方が歯ごたえが良くって好きですが、料亭などで出されるのは縦にスライスして大きく形を保ったものですよね。これだと新鮮な松茸は噛みきれなくて面倒ですよ。
他には、鮭のホイル焼きに入れたり、茶わん蒸しにしたり、天ぷらもいいし、チャーハンに混ぜたりも。食べ方はいくらでもありますね。
僕が発明したのは、エースコックのワンタンメン(インスタントラーメン)に割いた松茸を茹で入れて、その上にスライスチーズを載っけると味がよく合うんだった。
その頃は、朝から松茸、昼も松茸、夜も・・・(また松茸か)と思って、松茸ご飯に味噌汁をかけて流し込んだり、学校の弁当のおかずに入れられると、友達のタラコと交換したりして、今思えば結構な扱いですよね。

田舎で出荷される松茸は、太くて大きい傘が開く前のものが最高値で売れ、100グラム1~2万円の値が付くものもあります。
それ以外は大きさや形、傘の開き具合でランクがあって、すべてブローカー(バイヤー)によって値付けされるんです。
さらに傷物や虫食いは、キロ数千円と安いので、直売所でも10センチくらいのが数百円くらいで出されます。だから売らずに家で食べるのが普通です。これがうちの食卓に上る訳です。
シーズンは秋のほんの一ヶ月くらいですが、いい年で売り上げは100万を越えるってこともあります。
でも梅雨明けの頃、時期を間違えて生えてくることもあって、それだと一本5万の値が着くこともあるんです。
それは早松(さまつ)と言ってとても貴重で、高級料亭に卸されることがほとんどのようでした。
僕も大学の時、アルバイト代わりに、秋のシーズンの土日には田舎に行って、高齢のじいさんに代わって松茸山に登ってました。
その頃は土日2日間で、お駄賃10万円くらい貰うこともあったんですよ。

ところで松茸狩りって、皆さんの持つイメージってどんなんでしょうか?
誰も知らない深い山奥に秘密の場所があって、一日中歩き回って、必死で探す。
僕はテレビでそういった内容の放送をよく見ます。
松茸名人みたいな人が案内しても、一本も見付からなくて、「やっぱり、幻の食材ですね」で締め括ることさえあるじゃないですか。
これ、僕のイメージと大分違います。

じいさんの家が、田舎の集落の一番山際に建ってるんで、裏口から十歩でもう登り始めるんです。
そして50メートルも登れば、そこは松茸畑のようなもんなんです。
ただし生えてる場所はココと決まってる訳ではなくて、頭を出すタイミングによって様々ですから、ある程度探し回ることにはなります。
その時、何を便りに探すのかというと、一応過去に生えていた場所を中心に、赤松の木の根元周辺に目を光らせますが、それより頼りにするのは匂いです。
テレビに出てくる松茸名人でさえ、誰一人そんなことは言っていませんが、僕は匂いを一番に追いかけます。
松茸が生えていると、周囲にあの匂いが漂ってるんです。
それくらい香りの強い、いい松茸が生える産地ってことなんだろうと思います。

匂いがすると風向きを確認して、鼻をクンクン、風上に向かって姿勢を低くして進みます。
何故ならこの姿勢、登りながら斜面を見上げるのが、最も見付けやすいからです。
なんせ、落ち葉に埋まってると上から見下ろしても全く分からないし、頭を出していても周囲の色に溶け込むと気付かないなんてざらです。
テレビに出て来る素人は、一日中そうやって見落としてるんです。
下から見上げて登れば、わずかにでも落ち葉を持ち上げてくれていると、松茸の傘の裏側が覗けます。その部分は白いんでよく目立つって訳です。
正に、スカート中の白いパンツを覗くような感覚で見上げるといいです(笑)。
一本見付けると、その周辺には線状に連なって生えていることが多いので、辺りの枯葉を手で押してみると硬いところがあって、大概は傘が開く前のいい状態の松茸が隠れています。
そうして2時間もすれば、上等なものだけでも20~30本は採取することが可能で、下等品も合わせれば腰籠一杯になるって寸法です。
・・・ね。僕こそ松茸名人だって。