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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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事件⑤ 剣道の決勝戦



 決勝戦の直前まで和彦は中西の面を抱えさせられていた。中西はそれを会場の入り口で受け取ると、和彦にこう言った。
「私が優勝したら、山本君は剣道部に入る。いいわね!」
和彦があっけに取られていると、中西由貴はその返事も聞かずに身を翻して、背筋を伸ばしスタスタと中に進んで行った。
(あれぇ、先生には勝ってほしいけど、勝っちゃったら剣道部に入らないといけなくなる。困ったなぁ)
 その後姿に何とも言えないトキメキを感じながら見送っていると、ふと我に返り、二階の観客席に走って行った。
 和彦は席に着くと、観客席を見渡して、桐生伊織を探そうとした。しかし今度はどこにも、彼の姿は見付けられなかった。やがて先程の面を被った中西由貴が、体育館中央の試合会場に歩み寄り、竹刀を左腰に携えて仁王立ちした。まさに決勝戦が始まる直前の緊張感が漂ってきた。
 和彦は、ついさっきまで自分が抱えていた面と竹刀で会場に立つ中西に、さらなる親近感を覚えた。対戦相手は先程よりさらに大きく、パワーがありそうな女だった。中西由貴との対格差は、誰が見てもカワイク見える方を応援したくなる状況だ。双方歩み寄り、中央で竹刀を構えて蹲踞の姿勢を取った後、スッと立ち上がると、審判員が叫んだ。
「始め!」
 暫くは、双方ジリジリと横に動きながら、竹刀の先を相手の喉元に向けたまま、様子を窺っているようだ。
「キエェェェェェェェェェェ!」
奇声を発したのは中西。それに応えるように対戦相手も、
「ギャァァァァァァァァァァ!」
女子剣道特有の極めて甲高い気合の応酬は、剣道未経験者には滑稽にさえ思える。和彦もその様子を、いつもの魅力的な中西由貴とのギャップを感じて、戸惑いながら見守った。
「キエ!」
「ヤォゥ!」
「キーーーー!」
「キャーーーーーー!」
奇声合戦はどっちも引かない。
「小手ーーー!」
中西が相手の隙をついて、小手を狙った。しかしその剣先は空を切った。直後のお返しに相手も
「コでぇぇえぇ!」
小手狙いで返して来た。中西は半歩後ろに下がり、それをかわしたが、その後も後ろに下がり続けた。