小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

キツネの真実

INDEX|2ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

「親が勧めることなので、自分で見つけてきた相手を親に紹介したり、結婚を承諾してもるために説得しなければならない」
 などという面倒なことをする必要などなかった。
 それを思うと、この結婚は、
「まわりから望まれてする結婚だ」
 と思い込んでいたのだ。。
 ただ実際には、旦那の家族ではそれでいいのかも知れないが、親戚関係は反対だったようだ。
 それはそうだろう。親戚とは言え、赤の他人ほどどうでもいいわけではないが、必要以上に口を出せない人から見れば、まず考えることは世間体であった。
 さすがに、結婚に際しては、結婚後知り合う人には、嫁が元ホステスだということを、隠さなければならなかった。
 それは、先代の意志でもあるが、それに関しては生真面目であったはずの息子は承認しがたいところであった。
「どうして奥さんの過去を隠さなければいけないんだ? それじゃあまるで俺が曰く付きのオンナを嫁に迎えたと言わんばかりじゃないか」
 と思ったのだが、口に出すことはなかった。
 旦那としては、その思いがやがて奥さんへの目線に変わっていき、すぐに顔に出てしまう旦那を見て、さすがに元ホステスというだけで、彼女はすぐに旦那の気持ちを看破したのだった。
「私、これを玉の輿だって思っていたけど、ひょっとすると、とんでもないところに嫁に来てしまったのではないかしら?」
 と思うようになっていた。
 結婚までは、ちやほやしてくれていた義父も、結婚してしまうと、彼女に対して、あまり干渉しなくなった。口を開けば、
「早く、わしの孫を」
 と言っているのだが、それは同時に、
「早く後継者を」
 と言っているのと同じに聞こえるのだった。
 彼女は、結婚してまだ間もない頃にはすでに、
「自分は、結局子供を作るための道具として使われたのであって、嫁としては見てくれていないんだ」
 と思い、むしろホステスであったということを、世間体を考えてひた隠しにすることに従事していたようだった。
「こんなにも、簡単に態度を反転させられるものなのかしら?」
 と、掌返しの状況に、彼女は溜まらない思いを抱いていた。
 それでも、経営者の家族に玉の輿に乗ったということを、まわりからは見られていることで、離婚はもちろん、夫婦仲が冷え切っていることを自らに表に出すようなことはしたくなかった。
 それは、彼女の意地であり、特に、元ホステス仲間には知られたくないことであった。
 実は先代はまだ、彼女が勤めていたクラブを利用することがある。そこでは必然的に彼女の話題が出るのは無理もないことで、
「彼女、どうしてる? さぞやセレブな奥様をされているんでしょうね。羨ましい限りだわ」
 と無責任に女の子はそういうだろう。
 無責任というよりも、妬みと言ってもいい。自分たちにはそんな話が降って湧いてくるわけではないことに、嫉妬が生まれるのも当然であった。
 先代もそれが妬みから来ているのだと分かっているのかいないのか、
「うん、セレブを楽しんでいるんじゃないかな? 私は早く孫の顔を見たいと思っているんだけどね」
 と、いうだけだった。
 さすがにホステスもそれを訊いて、
――もう、嫁には興味がなくなってしまったんでしょうね、だから、疑問符がつくのであって、やはり、嫁というよりも、子供のためのあの人だったの――
 と感じたことだろう。
 それを思うと、このクラブでの社長は、もうすでに興味もなくなっているようだ。接待などでもなければ、本当は来たくないと思っているのかも知れない。
 この店のママも、それを察してか、先代にあまり構うことはなかった。すべてホステスに任せているというところであろうか。
 そういう意味では、さすがにクラブのママ。誰が店にとって重要な客であるかをしっかりと見極め、それに応じて、接客態度を変えていた。
 どうでもいい客に対しては、適当にあしらっていることで、重要な客に少々構うだけでも相手に対し、
「私は、この店で重宝されているんだ」
 とばかりに、客の自尊心をくすぐることで、満足させている。
 それを思うと、実にやり手と言ってもいいだろう。だが、それくらいでなければ、クラブのママなど務まるわけもないということなのであろう。
 このクラブのママは、元々歓楽街でもナンバーワンと言われていたクラブの、そのナンバーワンだった時代があり、一時期有名であった。雑誌社が取材に来ることも何度もあり、
「彼女が歴史を作った」
 と言ってもいいくらいのものであった。
 そんな彼女も他のレジェンドと同じように、お金を貯めて自分の店を持つということに邁進していた。
 念願の店を構えたがいいが、思ったよりも、自分の客をこちらに持ってくることができず、最初から船出は怪しいものだったが、最初から危機感を持って経営できていたということで、経営は安定しているようだ。
 危機感というのは、煽られると焦るものだが、最初から自分の中にあると、いい方向に向かうのではないかと思い、ママはそれを教訓にしていたのだ。
 そんなママのような破帽も覚悟もない彼女は、結婚して玉の輿に乗っかれればいいと思っていた。そして実際に、義父の目に留まり、うまく嫁になることができた。
 幸いにも富豪の家庭というと、躾であったりが厳しいものなのかも知れないが、そこまではなかった。逆に、
「昔のボロを出さなければ、それでいい」
 という程度なのだろう。
 彼女は名前を紗友里という。年齢は三十五歳で、結婚五年目だということは、クラブにいたのは二十歳代ということになる。紗友里の接客は大人しい方で、大人の魅力を醸し出していた。
 さらに、声もハスキーボイスだったので、
「若いのに、熟女の雰囲気もある」
 ということで、年配から若者までに、それぞれ人気があった。
 実際に、
「二十代です」
 というと、客のほとんどはビックリするというが、冷静になって見て見ると、
「ああ、なるほど、落ち着いて見えるから二十代と言われてビックリするんだけど、よく見たらあどけさや幼さがある。そのギャップに萌えるんだろうな」
 と、ほとんどの客は口にしていた。
 だから、義父に気に入られたのだろう。
 しかも、いくら玉の輿と言っても、年齢差が十歳以上もあるのだ。興味本位だけではとてもじゃないが、務まるものではない。
 旦那の方は、名前を金沢悟という。今四十五歳になるから、ちょうど紗友里とは十歳違いだ。
 結婚前は、年齢相応に見えていたが、結婚すると、急に老けて見えるようになり、さらに年の差婚のイメージを強く持たせた。
 だが、実際に気にしているのは、旦那だけで、まわりの人はそれほど気にはしていない。十歳くらいの違いはそんなに珍しいことではない。それよりも問題は、悟が真面目すぎて、ほとんど彼女がいた時期がないということだった。
 大学時代には数人、付き合ったことがあったようだが、長続きはしない。潔癖症なところまであるので、普通であれば、ついていける相手ではない。
作品名:キツネの真実 作家名:森本晃次