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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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591.宿題と遊び



 家の近く、徒歩10分ほどの場所にコンビニがある。最寄りのコンビニではないが、新しくてきれいなので、最近よく利用している店だ。

 先日、仕事でむしゃくしゃすることがあった。本当に頭にきていたせいか、面白いテレビを見ても、寝る時間になっても、むしゃくしゃは収まる気配がない。
 どうするかと思案した結果、俺はあのコンビニを思い出した。ちょっと歩けばいい気分転換になるし、あそこでジャンクフードや酒でも買って飲み食いすれば、スカッとした気分になるだろう、そう考えたのだ。

 ややあって例のコンビニに到着する。俺は迷わず、ストロングなチューハイを3缶とスナック菓子をこちらも3袋ほど手にして、レジの前に立つ。

 そのコンビニの近所にはちょうどいい公園があった。家に帰る気も起きなかった俺は、その公園のベンチに腰掛けて飲み食いをおっ始める。深夜に怪しい男が公園で飲んでいるなんて、ご近所さんからしたらはた迷惑かもしれない。でも、気持ちがいい。実際、むしゃくしゃがスーッとしていくのが分かる。

 そうやって飲み食いしているうちに、次第に酔っ払ってきた。フラフラと視界が回るその酔いの中で、ふと、母子のものと思われるやり取りが耳に入ってくる。

「ねえ、ママ〜、公園に遊びに行っていい?」
「駄目よ。宿題がまだでしょう?」
「遊んだあとにやるよ。だから、公園に行っていいでしょう?」
「いけません。宿題をちゃんとしてからです」
「え〜、いいじゃん、ね? 今、変なおじさんが来てるんだよ〜」
「駄目です。きちんと宿題をやってから。宿題をやったら行っていいから、ね」

 どうも、変なおじさんというのは俺のことらしい。まあ、変なおじさんなのだから仕方がない。だが、もう夜も遅い時間だ。仮に親同伴だとしても、こんな時間に公園に来るのはどうかしている。俺がいようがいまいが、子を止めるお母さんは賢明だ。

 そんなことを考えているうちに、菓子も酒もなくなった。むしゃくしゃも発散できたので、俺はその公園を立ち去り、家に帰ることにしたのだった。

 千鳥足で家にたどり着き、敷きっぱなしの布団に入る。なんとなく、さっきの母子の会話を考えているうちに、奇妙なことに気が付いた。
 よく考えたら、明日 (日付が変わっているから正確には今日)は祝日じゃないか。だから俺も、こんな深夜にやけ酒をあおろうと考えたのだ。

「じゃあ、あの子の宿題って何なんだ?」

 明日は祝日なんだから、恐らく学校は休みなはず。少なくともこんな深夜に宿題をせかせかやらせる必要はない。学習塾などの可能性もあるが、塾はそれほど朝早くからやらないだろう。朝、起きてから宿題を始めたって遅くない。
 まあ、恐らく教育に力を入れている家庭なんだろう。それにしては深夜に公園に行きたがるのが妙にげせないが……。そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りについてしまった。


 翌日。昼過ぎに目覚めてスマホを見ていると、近所で自殺があったというニュースが表示されていた。どうやら男性が首をくくったらしい。
 詳細を調べてみると、どうやら場所は昨日の公園のようだ。どうやら私が立ち去った後、首をつった男は縄と踏み台を手にしてやってきたようだ。

 何か話の種になるかと思い、その日の夜もそこのコンビニへ行き、店員に世間話ついでに昨日の深夜のできごとを話してみる。すると店員は奇妙なことを言っていた。

「この近くは独身者ばっかりで、親子連れなんて住んでいないんですよ。でも、その「宿題」の会話はこのコンビニでも、しょっちゅう聞かれるんです。そして聞こえた翌日、必ず公園で誰かが死んでいるんですよねぇ」

 この話を聞いた俺は、ようやく宿題の意味を理解した。そして次の瞬間、首をつった男の周囲を遊びまわる子どもの姿を脳裏に思い描いていた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔