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り狐:狐鬼番外編

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破落戸



其の身を細く長く聳え立つ、色褪(さ)めた鳥居
大工道具を肩に担ぐ破落戸が数人、連なり大柄に潜る

「若旦那の、注文通りにな」

破落戸の、一人の指示を受けて
「燃やすだけでは飽き足らないのかね」と、悪態を吐きながら
大工道具を降ろす、もう一人の破落戸が問い返す

「「鳥居」は如何するんで?」

其の問いに、仲間の破落戸等が「確かに」と顔を見合わせる中
指示を出した破落戸が、背後の鳥居を振り仰ぐ

「そりゃ、御前」
「「社」が無いのに、「鳥居」だけ有っても、」と言い掛け、押し黙る

木木が鬱蒼(うっそう)と茂る杳杳たる頭上

明神鳥居
其の笠木に何かが、居る

「有」るでは無くて、「居」る

「野鳥?」

しては、大きい
大きい所か、大き過ぎるだろ

見上げたまま、破落戸は両瞼を擦る

「野鳥?、じゃない」

眼下を覗き込む、姿勢で
見下ろす「其れ」と目と眼が搗ち合った瞬間、尻餅を突く

彼(あ)れは、「獣」だ
其れでも「獣」にしては尋常じゃない、大きさだ

琥珀色の毛皮を秋光(しゅうこう)に透かす、「獣」が
琥珀色の眼を剥いて、大口を開けている

其の真っ赤な口内から伸びた、鋭く尖った牙

途端、大声を張り上げる
破落戸の声に飛び跳ね驚く、仲間の破落戸等が「何事か」と問う

「?!如何した?!」

尻餅を突く、破落戸が見上げる鳥居を指差すも
突如、頭上から降り注ぐ「咆哮」

抱える勢いで耳を塞ぐ、破落戸等

瞬間、地鳴りと共に山内が割れ
鳥居の亀腹は砕け、其の柱が消魂(けたたま)しい音を立て、罅が走る

「獣」の身を捩り、咆哮を上げ続ける
「其れ」を確認する暇も無く、破落戸等は一目散に「社」から逃げ出す

当然の如く、置き去りにされた
破落戸の一人も、あわあわしながら四つん這いで鳥居を抜ける

「待て」

背後から呼び止める声に
短い悲鳴を漏らす破落戸が止せば良いのに、正直に振り返った

鳥居から降り立つ、金狐の姿を目の当たりにする
破落戸は愈愈、泣きそうだ

剰え、咽喉を鳴らす金狐の鼻先が
其の顔面に迫った瞬間、股間を濡らす生暖かい「モノ」を感じた

「三度(みたび)は、無い」

然うして軽く(本当に軽く:金狐談)足を踏み鳴らした刹那

先程の咆哮で罅割れた、背後の鳥居が限界を超えたのか
頭の上を跨ぐ様に倒れ込む

地響きと同時に巻き上がる、土煙

火事場の馬鹿力なのか
矗(すっく)と立つ、破落戸が脱兎の如く駆け出す

其の後ろ姿を何とは無しに見送るも
一人残された金狐は、其れこそ「チベスナ顔」で横たわる鳥居を眺めた

作品名:り狐:狐鬼番外編 作家名:七星瓢虫