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り狐:狐鬼番外編

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楼主



「!!一体、如何いう了見だい!!」

内証に飛ぶ、御内儀の怒声に
楼主が少女との間に入るが、「引っ込んでろ」とばかりに
其の、夫の突き出た腹を押し返す

「!!若旦那を放ったらかして何してんだい!!」

然うして着の身着のまま
肩を抱えて俯く少女の顔面目掛け、打掛を投げ付ける

「!!疾疾(とっと)と座敷に戻りな!!」

瞬間、顔を背け蹌踉(よろ)ける少女の様子に
蚊帳の外の楼主は「あわわ」と、其の身体を支えようとするが
再度、御内儀に押し返された

行って、如何なる

笑う事も出来ない
誘う事も出来ない

自分が行って、如何なる

凍える手を、打掛に伸ばそうとしない少女を見遣り
業を煮やす御内儀が荒荒しく拾い上げ、胸元に突き付ける

「!!ほら!!」

言葉も無く、首を振る少女に
御内儀が到頭、足元に打掛を叩き付けると
其の、横っ面を思い切り引っ叩く

怒り心頭に発した結果
少女は商売道具、だと言う事を見事に失念した

愈愈以て、楼主が声を上げる

「御前!」
「叩く事は無いだろう!、叩く事は!」

其れでも、後が怖いのか

痺れる手の平を押さえ、少女の前に立ち開(はだ)かる
御内儀の身体を抱き抱えて、脇へと退けた後

結構な当たりの、一撃を食らいながらも
身動(みじろ)ぎ一つしなかった少女の肩を抱き寄せ、言い聞かせる

「御前さんは充分、頑張って来た」
「其の御前さんを若旦那は、きっと大事にしてくれる筈だよ」

「らん」

妓楼の主人としては唯唯、人が好い

少女を生温く、宥める夫の態度を見遣り
未だ、気が立つ御内儀が

「!!支度金だって頂戴してるんだよ!!」

吐き捨てる也、どかっと炭櫃(すびつ)の前に座り込む

楼主は場都合が悪いのか
疾うに後退し切った額を、肥え太った手の平で撫で上げる

「、らん」
「若旦那は、御前さんを悪い様にはしないよ」

其れでも此処に居たい
其れでも此処に居たいと、願うのは駄目なのか

唯一つの、「願い事」も叶わないのか

漸く、足元に広がる打掛を拾い上げる
少女が白い所か青褪める唇を震わせ、はらはらと泣いた

作品名:り狐:狐鬼番外編 作家名:七星瓢虫