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り狐:狐鬼番外編

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狐火



眼の前の、襤褸「社」は緩やかに燃えていた
夕闇の虚空に煌煌と炎が上(のぼ)る

受け入れる様に
其れでも踏み止まる様に

「社」の、梁を露わに燃え広がる炎の中、佇む
老狐の姿を見た

当然、躊躇無く、足を踏み入れる
此の世の、「炎」は狐火を吐く、神狐には無意味だ

琥珀色の御河童頭を靡かす
金狐に問われる前に、目を伏せる老狐が吐き捨てる

「此れで良い」
「此れで、彼(あ)の娘(むすめ)も「社」に来なくなるだろう」

途端、老狐の言葉に乾笑の声を零す
金狐の頭が「がくっと」垂れる

其の様子に老狐は多少、心痛する

然(しか)し卦体な、狐だ

然程、気に入ったのか、此の「社」が
然程、気に入ったのか、彼(あ)の「娘」が

其れは一理、有る

彼(あ)の、「娘」は良くも悪くも惹き付ける
彼(あ)の、「命の珠」に魅かれたとて何ら不思議では無い

儂の、此の行為に憮然と腹を立てるのも当然だ

「そうか」
「そうなのか」

項垂れたままの金狐が漸く、口を開く

「御前は、此の「社」を手放したんだな」

顎を引く老狐自身、金狐の「怒り」を受ける覚悟でいた
いたが、其の「度合」を考慮していなかった

「そうか」
「そうか」

金狐は組む、腕を袖手(しゅうしゅ)し独り言つ

高を括っていた

若旦那の、「声」の「記憶」に当てられても
何の道、此の老狐が如何にかするだろう、と高を括っていた

故に、馬鹿な「願い事」を優先した結果、此の有様だ

己は彼(あ)の娘に、何と詫びれば良い
御前は彼(あ)の娘に、何と詫びるつもりなんだ

顔に垂れる、前髪の隙間
微かに諦観の笑みを浮かべる、眼前の老狐を盗み見る

「そうか」
「そうか」

御前は満足か
御前は其れで満足なのか

其れでは、彼(あ)の娘の気持ちは如何なる?

「手前勝手な、狐め」

明白(あからさま)な悪態を吐く、金狐に顔を向ければ
じろりと一瞥する、琥珀色の眼と搗ち合う

思わず、辟易(たじ)ろぐ老狐の耳に
歯噛みする牙が立てる、剣呑な音が鳴り響く

道理等、知らぬ

所詮、獣だ
獣故、此の世の、「理」等知らぬ

無理で結構
其れでも、「道理」を知っている己は獣以下だ

愈愈、「社」周辺の木木へと燃え移る炎に一斉に羽搏いた
野鳥達の嘶きが空気を切り裂く

金狐が大口を開ける

瞬間、甲高く弾ける音
鼓膜が振動した刹那、目の前が暗くなる

「炎が消えた」
と、認識する間も無く、老狐は膝を突く

何だ、此れは

地に押し付く感覚に
迚(とて)もじゃないが立って居られない

何なんだ、此れは

当然、金狐の「仕業」だと理解するや否や
頭上を見上げる、其の大口から「狐火」が火柱の如く、噴く

此の世の、「炎」が
彼(あ)の世の、「狐火」が渦を巻き、噴き抜ける

先程とは反対

今度は、天に引き付く身体を踏ん張りながら
轟音を轟かせる「狐火」に戦きながら、老狐は再び思う

何なんだ、此の「子狐」は

何(いず)れ?
何(いず)れ追い付き追い越す?

馬鹿を言うな

御前さんの
其の、能力(ちから)は疾うに並び無い

時にすれば僅かなのだろう

見事、火柱を呑み込んだ、「其処」には
素知らぬ顔の、今宵の月がぽっかりと浮かぶ

琥珀色の眼で仰ぎ見る、金狐が言い放つ

「「社」は、己(おれ)のモノだ」

想定内と言えば、想定内
想定外と言えば、想定外

老狐は言い知れぬ思いで唯唯、金狐を見詰める

「社」は無惨にも梁だけになってしまった

其れでも二度と手放す事は無い
己の、居場所だ

然うして、行き場無く
其処此処を右往左往する野鳥達に、「御前達の居場所でもある」
と、眼を向けた途端、一斉に老狐の背後へと身を隠す

当たり前の結果と言えば
当たり前の結果だ

彼(あ)の金狐の様子に震えぬ輩等、居ないだろうに

だが、場都合が悪いのか

半眼を呉れる金狐に、言葉を掛けようと
長く、垂れ下がる眉毛を掻く老狐が口を開くも

「気遣い等、無用」

と、ばかりに其の歯茎を剥いたので大人しく、閉じた

作品名:り狐:狐鬼番外編 作家名:七星瓢虫