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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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「お母さんっ、毛布出してーっ!」
 リルが、家の戸をバタンと勢い良く開けるなり叫んだ。
 走って来たらしい様子の弟に、姉がバタバタと駆け寄る。
「リル!? どうして戻って来……」
「コモノサマが熱出しちゃったんだよー」
「えっ、そ、それは大変だけど……、リルがちゃんと聞き耳立てておかないと……」
 不安を隠し切れない様子のフリーに、リルはほんの少し、自分の行動が間違っていたかと不安を感じつつ答える。
「あ、うん。家に入らなければ、ここからでも叫び声くらいは聞こえるよ……?」
 その答えにフリーが怒気を膨らませた。
「あの場所で叫び声が上がってからじゃ、遅いでしょ!?」
 姉の両手がそれぞれ拳の形を作るのを見て、弟は後退る。
「い、急いで毛布持って帰……」
 ピクリ。と小さくリルの耳が跳ねた。
 バッと全力で振り返る弟の様子に、姉はただ事ではないと感じる。
「リル……? まさか、今……」
 リルの表情が青くなるのを見て、フリーは返事を待たずに駆け出した。
「あっ! フリー!!」
 リルが必死に伸ばした手は、フリーに届かない。
「ダメだよっ! 危ないよ! フリーっ!!」
 リルの悲痛な叫びを背に、フリーは振り返らず駆けて行った。
 フリーの心は、菰野の無事を祈る声でいっぱいになっているようだ。
 リルは家を振り返るが、まだ母は玄関に姿を見せない。
(どうしよう……ボクの足じゃフリーに追いつけないよ……。でも……お母さんでも追いつけない……よね)
 小さな少年は、瞳に不安を後悔を滲ませながらも、自分のわかる範囲の事を精一杯考え、決意する。
(やっぱり、ボクが追わなきゃ!!)
 決意に反して、じわりと不安が涙となるが、それに構っている時間はない。
「フリーっ! 待ってーっ!!」
 少年は震える手を握り締め、一人、姉を追って走り出す。
 暗い、夜の森へ。
 少年の駆けた後には、小さな涙の雫だけが残った。