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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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六人の住人【完結】

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25話「全員だった」






カウンセラーさんは、どうも私の事を我が子のように見ている気がします。

どうも、時子です。昨日カウンセリングに行ってきたので、その様子を少しお話ししますね。



「五樹との統合がされました」

私がカウンセリングルームでそう言うと、カウンセラーさんはとても驚き、「本当ですか?」と聞いてきました。

私が「本当です。五樹が持っていた、過去に他の人格が発言した事の記憶も、同時に取り込んだようです」と話すと、カウンセラーさんが驚くべき事を言いました。

「そうですか、それならもしかしたら、五樹さんと一緒に、いっぺんに全員取り込んだのかもしれませんね!」

私はそこで、少し混乱しました。

だって、そんなに急に全員を取り込んだとしたら、何か綻びや苦労があって然るべきと感じたからです。

「本当ですか…?それはあまりに急な話じゃないですか?」

「ええ、確かに急だと思います。だから、「これって本当に私なの?」と自分の感覚に戸惑う時期が長くなると思うので、これからは少し気をつけて下さい」

何に気をつければいいか分からない。でも、横に居た夫も、「俺もそう思ったんですよ」と言い添え、話は今の私の状態に移りました。

「統合が起きて、何が変わったと思いますか?」

「あ、不安や、恐怖が薄らいだように思います」

「そうですか、凄いじゃないですか。前は時子さんって、ちっちゃくなって不安がってたけど…」

「確かに、そんな風には今はならないですね」

「それにしても…話し方も声も、五樹さんに少し似ていて、でも時子さんのような所もあって、最初分からなかったです」

“カウンセラーでもそう感じるくらいなんだ”

「そんなに変わりましたか?」

私がそう聞くと、カウンセラーさんは大きく何度も頷いた。

「ええ、ええ。変わりました。もう〜時子「ちゃん」が時子「さん」になっちゃって〜!動画撮っとけば良かったわ!」

そう言って悔しそうに体をねじるカウンセラーさんを、私は一歩引いて見ていたように思います。これも、前なら有り得ない事でした。

つつがなく過ぎていくカウンセリングを、どこか冷静に分析しながら、私の事で一喜一憂するカウンセラーさんや夫に対し、「一生懸命だなぁ」と他人事に眺めている。

それは少し冷めすぎている目線なのでしょうが、私自身が我を忘れる事はなかったと思います。



でも、“なぜみんなそんなに喜ぶのだろう”と、不思議に思う気持ちがあります。

それはおそらく、幼い頃に自分の事を親に喜んでもらえた時が、とても少なかったから。

人格の統合は、おそらく全員済んだのでしょう。「五樹の過去の記憶」だと思っていた他の人格の発言の記憶は、他の人格そのものを取り込んだから得た物だったのだと思います。

それをして尚、私は自分が愛される理由に思い至らない。愛される事に素直に喜びが湧かない。なぜそんなに喜ぶのかが見えてこない…。

以前、カウンセラーさんに、「安心感や愛情を感じるための基盤がまだ無い状態です」と言われてもいましたし、統合の混乱を経た後は、その意識を育成する事に時間を費やすのだと思います。


まさか全員だったなんて私も分かりませんでしたが、今後綻びが出て困らないように、しばらくはゆっくりと休みたいと思います。

今回もお読み頂きまして、ありがとうございました。




作品名:六人の住人【完結】 作家名:桐生甘太郎