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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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メイドロボットターカス

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第52話 ぶっ放せ!






「ねえねえ。ロペスさん、来るかしら?」

「来るだろ。仕事なんだから」

「二人とも、もうお菓子はしまった方が…」

「うるせえな、別にいいだろ。「職務意欲に対する侵害」でお前を訴えるぞ」

「ご、ごめんなさい…」

相変わらず、この子達はこうだ。

アルバは何にでも興味を持つが、警戒心が足りない。メルバは少し横柄だが決断力がある。そして、シルバは、能力の面では他の二人に劣らないのに、人格的コミュニケーションを不得意とする。

私は、戦時に欠けた“銭形”以外の、「メキシコシティ行方不明事件」の捜査メンバーを集め、そこにさらに、ダグラス・ロペス中将と、ラロ・バチスタ博士を加え、アメリカへと乗り込む事になった。

ポリスとしては、国外への技術流出、もしくは技術の盗難を捜査する、という事になる。実際に、「ターカスのスケプシ回路からは、パーツが消えていた」とバチスタ博士は語ったし、戦前とは、ターカスは大分様子も変わったと言う。

そこまで証拠があるなら、こちらとしても動きやすい。しかし、本当にデイヴィッド・オールドマンが盗ったという証拠ではない。なので私は、私の所属する合衆自治区のポリス本部で、出立前から、オールドマンの最近の研究内容を、出来うる限りで調べさせていた。

「遅いわねえ中将…」

「あっ!お前!もうないじゃないか!」

「だって、これ美味しいんだもの。食べちゃったわよ」

「ひっでえ!俺、まだ2枚しか食べてないんだぞ!?」

「アンタだって、前に私のビスケットを、まるまる盗んだじゃない!」

「それはそれ、これはこれだ!」

「二人とも…」

そこで私は、パチン!と大きく両手を打った。子供達はびっくりしてこちらに注目し、その場はシンと静まり返る。

「はい、そこまで!君達、これから海外に仕事に行くんだ。下らない揉め事で足を乱したら、私はその人員を締め出すぞ」

私がそこまで言ってしまうと、メルバは少し悔しそうな顔をしていたが、ぐっと堪えたのか、「はーい」と、めいっぱい長く伸ばした返事をした。

そこへ、私達が集まっていたポリス支部会議室の扉が開く。ドアをくぐって現れたのは、ラロ・バチスタ博士と、ダグラス・ロペス中将だった。

「ええ。そうですね博士」

「そうじゃとも」

彼らは今まで何かを話していたらしい。

「初めまして、ラロ・バチスタ博士」

私は、背が低い博士に向かい、少し腰を屈めて片手を差し出す。すると博士は、大喜びで握手をしてくれた。

「おお、おお!君がアームストロング次長か!今度はよろしく!是非ともアメリカでぶっ放して、パーツを奪い返そう!」

私はその言葉に驚いた。博士は、ポリスからの話を聴き違えたのかと思い、慌てて話を始める。

「博士、「ぶっ放す」とはなんですか?今回は、捜査に行くだけですよ?」

すると博士は「ぎっ!?」と、踏まれた鶏のような声を上げた。

「なんじゃと!?それはダメじゃ!必ずパーツを取り戻さねば!」

私は、“ああ、やっぱりか”と、項垂れそうになった。でも、一応博士にこう話す。

「博士。確かに、貴方のお話が本当なら、絶対に防ぐべき事態です。ただ、我々ポリスが動けるのは、証拠のある時だけなんです。本当にオールドマン氏がターカスのパーツを抜き取ったのか、誰か他の者ではないのかという疑いが差し挟める内は、少なくとも、“ぶっ放す”事は出来ませんよ」

そう言うと博士は納得はしてくれたみたいだが、不満そうにこちらをじとっと睨んでいた。なので私は、片手をアルバ達に向けて、こう付け加える。

「でも、護衛の人員は抜群の者を揃えました。あちらでの行動に危険はありません。ご安心を」

博士はまだ私を睨んで、唇をつん出している。なんだか、子供のような人だなと思った。

「そりゃあ、お前さん…大義名分がなきゃ何も出来ない事くらい、知っとるが…本当に都合はつかないのかね?せめて、オールドマンの家を訪問するわけにはいかないのか?」

私は“困ったな”と思い、言葉を選んでいた。その時に口を開いたのは、ロペス中将だ。

「アームストロング。俺は見た。GR-80001と同じ型に見えるロボットは、オールドマン邸に保管されていた。ボロボロの状態でな。何らかの危害を、他者が加えたように見えた。あの研究所では、何かが起きている。GR-80001に関する何かが」

私はその話を初めて聴いたので、中将へ近寄り、話をしようとした。

「初めて聞きました。どういう事です?ターカスはすり替えられたのですか?」

そこで、私達の横合いから博士が叫んだ。

「いいや!有り得ない!“ターカス”には、儂があのパーツを取り付けられるように、特別な改造を施したんじゃ!核融合炉をちょっとずらすのには、20日も掛かった!その痕跡はそのままじゃった!すり替えられたんじゃない!盗まれたんじゃ!」

私は、博士に当たり前の返事として、「そうですか、盗まれたのはやはりパーツでしたか」と返事をした。だが、博士は首を振って叫ぶ。

「違う!別のGR-80001が盗まれた!」

「ええ?」

私は、博士の頓狂な叫び声と、矢継ぎ早な意見に少々くたびれながらも、博士の方を向いた。博士は必死に小さな体を伸び上げさせ、両腕を振り回している。

「GR-80001は、メキシコ自治区に属し、その地域を出ない事を条件に払い下げられた、戦術ロボットじゃ!居るとしたら絶対に国内じゃ!オールドマン邸にあったそいつは、メキシコから盗まれておる!盗難届を探せ!それさえあれば、踏み込める!」

「ええ、博士の仰る通りのようです」

私が振り返ると、シルバが、メキシコシティのロボット管理局に通達された、盗難届のページをこちらに向け、微笑んでいた。