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魔法使いのキュートな弟子 ~掌編集 今月のイラスト~

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 裕子が正直に言うと……。
「少ないな、それじゃプロとしては通用しないよ、もっと憶えたい?」
「はい、是非にも」
「うん……マジシャンってのはさ、お客さんを喜ばせてナンボの物なんだよね、僕なんか冴えない中年だし華もないからテクニックで勝負するしかないんだけど、君なら……」
「あたしなら?」
「あのさ、今の佐藤さんのショーははっきり言ってつまらない、同じネタを繰り返し見せているだけだからね……師匠を悪く言って申し訳ないけど、佐藤さんは気持ちを入れ替えない限りだめだと思うよ……気を悪くしないで欲しいんだけど、今の佐藤さんのショーを支えてるのは君のお尻であり、胸であり、背中なんだよね……それは僕も楽しませてもらってるけどさ」
 ちょっと、何と返答したら良いのかわからなかったが……。
「もう佐藤さんの所からは出た方が良い、それは佐藤さんのためでもあると思うよ、アシスタントの美ボディに頼ってばかりではね……あれだけ新しいマジックを生み出して来れたんだ、もう一度マジックに本腰を入れればまだまだやれる人さ、あの人は…………で、君だ」
「あたし……?」
「何しろ華があることにかけちゃちょっと他には見当たらない逸材さ、マジックがヘタクソじゃそれまでだが、もっと上手くなれる素質は充分あるし、意欲もあるよね……僕の弟子になる気はない?」
「え? でも……」
 マジックの世界では師弟関係を容易に解消できない、トリックの流出を防がなければならないからだ……だが……。
「佐藤さんは良い顔しないだろうけど、元々弟子ってわけじゃないんだってな?」
「それは確かに……最初からずっとアシスタントとして……」
 アシスタントも自分が関わるマジックのトリックは知っているが『弟子』ではない……。
「ま、考えておいて、待ってるからさ」

 本当に自分がやりたいこと……。
 華やかなデビッド佐藤のステージに魅了されたのは確かだし、自分もマジシャンになりたいと思った。
 でも、高校のマジック同好会では大がかりなステージマジックは無理、だからテーブルマジックの腕を磨いたのだが、それもやはり楽しかった、クラスメートばかりじゃなく、文化祭で一般のお客さんを相手に披露して喜ばれると無性に嬉しかった……。
 大がかりなステージマジック、繊細なテーブルマジック、どっちも自分がやりたいことだった……お尻や胸を出して喜ばれるのは違う……。

「鈴木さん、お願いします、弟子にしてください」
 数日考えた末、裕子は鈴木に頭を下げ、その足で佐藤の下にも行った。
「この公演が終わったら、アシスタントを辞めさせてください」
 佐藤は驚き、苦虫をかみつぶしたような顔になり、歯噛みをしながら言った。
「一体誰のおかげで……」
「佐藤さんに拾ってもらったのは感謝しています、でもあたしは弟子じゃありません、アシスタントを続けていればいつか弟子にしてもらえるかも知れないと思ってましたが、実際にあたしがしたことはお尻や背中を丸出しにして、胸の谷間を見せることだけ……」
 佐藤はしばらく怒りで顔を赤くしていたが……ふと力が抜けたようになり、顔色も元に戻って行った。
「確かにそうだ……俺は腑抜けていたな、君がいたから何とかやって来れた、薄々わかっちゃいたが、そこにあぐらをかいちまっている自分を見ないようにしてたようだ……弟子入りのあてはあるのか?」
「はい……リッキー鈴木さんに……」
「そうか、奴は華がないがテクニックは一流だ、師匠としては好適かも知れないな……」
 そう言うと、佐藤はふと立ち上がった。
「ここに煙草があれば一本吸いたい気分だよ、あの女が『煙草の匂いは嫌い』とか言うんでやめちまったんだが……アシスタントとして最後の仕事をしてくれないか?」
「はい」
「角のコンビニへ行って煙草をひと箱買って来て欲しいんだ、銘柄は何でもいい、ライターと携帯灰皿も忘れずにね……自分で買いに行っても良さそうなものだが、ぜひ君に買って来て欲しいんだ」

 頼まれた品を届けると、佐藤は深々と煙を吸い込み、少しせき込んで言った。
「五年ぶりだと一ミリの煙草でも効くな、クラクラするよ」
 そう言いながらも一本吸いつくし、携帯灰皿に吸殻を入れると、裕子に深々と頭を下げた。
「今の一本でふっ切れた気がするよ、長い間ご苦労だった……君が一人前のマジシャンになるのを楽しみにしているよ」

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 三年後……。
「ハートのエースはその中にありませんか? 変ですね……あ、ありました、ここに」
 裕子が空中で指を二本立てると、そこにはまるで虚空から現れたようにハートのエースが……。
 裕子……今は師匠の姓を貰ってYou鈴木と名乗っている。
 確かなテクニックだけでなく、ビジュアルでも人を惹き付ける新進女性マジシャンだ。

 佐藤のアシスタント時代の末期ほど過剰な露出はしていないが、『キュートでセクシー』な衣装は彼女のトレードマークであり、大きな武器でもある。
 白いベストとシルクハット、ごく短い上着を肩に引掛け、首にはリボン、そしてエナメルのブーツを身に着ける、ボトムはショートパンツかビキニか悩んだ末にビキニを選択した。
 大胆な衣装ではあるが、端正な顔立ちとストレートロングの黒髪が品性を保つのに一役買っている。
 そしてマジックが成功してお客さんを喜ばせた時、シルクハットのつばに指を添えて首をかしげるように軽く会釈する優雅な動作、その時見せる笑顔は見る人を魅了する。
 彼女のルックスとスタイルは人を惹き付けるに充分な魅力を持っているし、えてして地味になりがちなテーブルマジックの世界に華やかさを持ち込んだ先駆者として、先輩マジシャンたちからも支持されている、それはテクニックもあると認められている証左でもある。
 裕子は『自分が本当になりたかったもの』を見据えて努力し、工夫してそれを実現し、更に成功も手に入れたのだ。

 今では両親も認めてくれている……父親からは『せめて下にはショートパンツくらい穿くようにしてくれないか』と言われているが、今のところそれが親子喧嘩の種になりそうな気配はない。