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魔法使いのキュートな弟子 ~掌編集 今月のイラスト~

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 裕子が初めて人気マジシャン・デビッド佐藤のショーを見たのは、小学校五年生の時だった、裕子が住む地方での単独公演があり、親に連れられて見に行ったのだ。
 観客の度肝を抜く大がかりなマジックに加えて、色鮮やかな舞台、洗練された衣装、優雅な身のこなし……子供だった裕子は不思議で華やかな世界にすっかり魅せられてしまった。

 それから七年。
 デビッド佐藤はテレビにも数多く出演、名声を揺るがぬものとしていた。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「あたし、デビッド佐藤さんの弟子になりたい」
 高校卒業間近の裕子がそう両親に次げると、猛反対に遭った。

 その時既にビジネス系専門学校に合格していて、両親は『一般事務でいいから良い会社に就職して、できればそこで良い結婚相手を見つけて、平凡でも安定した人生を送って欲しい』と願っていたのだ。
 高校ではマジック同好会に所属して部長も務めていたが、それは単なる趣味に留めてくれるものだと考えていた。
 だが裕子はと言えば、専門学校に合格したことで却って自分の進路に疑問を抱いた。
 親が言う『平凡でも安定した人生』、親はそれが最良だと信じて疑わないようだが、自分には小さい頃からの夢があったはず……親が平凡を望めば望むほど、それが退屈な人生にしか見えなくなって行く。

 当然のように親子喧嘩になった。
「マジシャンなんてヤクザな仕事、認めんぞ」
「ヤクザな仕事って何よ! 人々に夢を与える素敵な仕事じゃない!」
「マジックなんて所詮はトリックだ、お前は人を騙して生きようと言うのか」
「騙すって……詐欺師みたいに言わないでよ!」
 どこまで行っても、何回話し合っても平行線どころか親と娘の気持ちは離れて行くばかり。
 裕子は意を決して家をこっそりと抜け出した。
 ボストンバック一つ提げて、お年玉を貯めてあった僅かなお金だけをポケットに……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「ふむ……」
 いきなり『弟子にしてください』と飛び込んで来た娘を前にしてデビッド佐藤は腕組みをしていた、既に何人かの弟子がいて、これ以上増やそうとも考えていなかったが、アシスタントは必要としていた。
 つまり、箱に詰め込まれて剣でめった刺しにされたり、胴体を電動鋸で真っ二つにされたりする、うら若き美しき女性を。
 これまでのアシスタントが結婚を決め、それを機に辞めたいと言っていたのだ。
 目の前に突然現れた、まだ十八歳だと言う娘はすっきりと整った顔立ちでスタイルも良い。
 もちろん、串刺しにされたり真っ二つにされたりする側にもそれなりの技術が必要ではある、そうでなければいくつ命があっても足りない。
 だが幸いにして現アシスタントが辞めるまでにはまだ三月ほどある、仕込むには充分だろう。
「弟子は今いるだけで手いっぱいなんだよね、アシスタントとしてならぜひお願いしたいけど、どう?」
 もちろん弟子にして欲しいのはやまやまだったが、アシスタントでも憧れていた華やかな舞台には立てる、そうやって師匠の下に居ればいつかマジシャンへの道も拓けるかも知れない。
 そもそも何の当てもなく着のみ着のまま出て来たのだ、裕子はイエスと言う返答しか持ち合わせていなかった。

 三か月後、裕子はアシスタントとして初舞台を踏んだ。
 その頃、デビッド佐藤はかねてから噂のあったふたまわりも年下の美人女優と結婚し、仕事もプライベートも最高潮にあった。
 新しいマジックも次々と発表し、裕子もアシスタントとして勉強と練習、そしてステージと忙しい日々を送っていた。
 
 だが、スポットライトが強烈なほど影も濃くなる。
 女優との新婚生活にうつつを抜かしたデビッド佐藤は新作をさっぱり作らなくなり、ショーは今までのレパートリーを繰り返すばかり。
 人気は徐々に衰えて行った。
 しかも、追い打ちをかけるように結婚生活も三年で終わりを迎えた。
 女優は一人の男の妻に収まっていられるような性分ではなかったのだ。
 次々と若い俳優や歌手と浮名を流し、挙句にデビッド佐藤よりも十も年上の作家と同棲を始め、彼の下を去った。
 それら一連の騒動に振り回されながらも未練が断ち切れず、憔悴しきったデビッド佐藤はすっかり仕事に身が入らなくなり、ショーは尚更おざなりなものとなって行った。
 そして、その状況に危機感を募らせたマネージャーが打った手は……。
 佐藤に何を言っても始まらない、もはや抜け殻のようになってしまっているのだから。
 だったらステージの見映えを良くするしかない、それには……。
 マネージャーは舞台装置やショーの構成、BGMの刷新などを進めて行き、裕子の衣装にも手を付けた。
 
 元々はミニのドレス姿だったのがレオタードにタイツとなった時は大して抵抗はなかった、元のドレスもそこそこセクシーなものだったし、レオタードなら却って動きやすい。
 だが、タイツを穿かないように言われた時から(まずいことになりそう)と思い始めた。
 タイツを穿かないこと、そこには舞台全体のバランスや動きやすさと言う観点はない、あるのは『露出』と言う意味だけだ、それはもうマジックショーのアシスタントの域を逸脱している。
 そして、裕子が危惧を抱いた通りに、その後も衣裳の『改良』は続いて行く。
 レオタードはどんどんハイレグになって行き、お尻を隠すべき布地はほとんど紐のように……裕子はお尻を丸出しにする恥ずかしさに耐えなければならなくなった。
 それだけではない、胸元もどんどん開いて行ってまともなブラジャーが着けられなくなり、ニップレスに頼る他なくなった、背中の抉れも大きくなり、背中どころかお尻の割れ目まで見えそうなほどに……これでは紐パンティすら着けられないので大事な部分はテーピングでガードした。
 つまり、舞台に出る裕子が身に着けているのは、ニップレスとテープの他は極端に布地が少ないレオタードだけ……それはもう隠さなければ法に触れてしまう部分をかろうじて覆っている布に過ぎず、レオタードなどと呼べる代物ではなくなっていた。
(これじゃまるでストリッパー……)
 ストリッパーを卑下するつもりはない、その頃から増えだした大きな温泉ホテルでのショー、同じ舞台にストリッパーたちも出演していて客を喜ばせるのを見ていたのだ、彼女たちは立派なパフォーマーだ。
 でも、自分がなりたかったのはストリッパーじゃない……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「へえ、なかなかやるじゃないか」
 ある日、楽屋でカードマジックを練習していると、後ろから声を掛けられた。
 テーブルマジックの中堅どころ、リッキー鈴木だった。
 同じ温泉ホテルに出演していたのだ。
「どこで憶えたの?」
「高校のマジック同好会です」
「プロに習ったことはない?」
「はい、本やネットで」
「先輩や先生は?」
「あたしが作った同好会だったんです、一応顧問の先生はいましたけどマジックとは縁のない人で……」
「独学か、それにしては美味いよ、手先が器用なんだな……レパートリーはいくつくらいある?」
「あんまり……十種類しか……」