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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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166.迷惑な人



 この世に生きていると、はた迷惑な人によく遭うだろう。

 例えば、近所の騒音とかいい例だ。音楽とか、ペットや子供の叫び声とかが聞こえてくると、こっちの集中を削がれるよね。なんとかハラスメントなんてのも、最近は多い。おじさんの加齢臭、お酒の強要、性的なものや立場を利用したもの、数え上げればきりがないよね。
 ああいう人たちには、関わらないのが一番いい。ここまでは、まあ、当たり前の話なんだけど……。

 ところで君は、何かを好きになったことはあるかい? ゲームでも、アニメでも、無論人でもいい。好きで好きでどうしようもない、そんなものはあるだろうか。
 僕の小学生の頃の友達に、Mくんという男の子がいた。彼は、とあるゲームの熱心な信奉者だった。寝ても覚めてもそのゲームをしている。話をすればそのゲームのことばかり。何回、何十回とクリアをしているのに、飽きずにずっとやっているような子だったんだ。
 僕も、そのゲームはそれほど嫌いではなかった。だから、彼とは結構仲が良かったんだ。でも、今思うと、なんかちょっと好きの方向が病的と言うか、そういうところは感じていたね。でもまあ、その程度なら、ちょっと変わった子だなで済んだんだが、ある日、そうも行かなくなったんだ。

 僕らが中学生になった、ある日のことだった。相変わらずMくんはそのゲームに首ったけで、休み時間の教室でその話を得意になってしていた。ある日、そんなM君に口を挟むものが現れたんだ。
「そんなに面白い? あのゲーム」
中学から一緒になったクラスメイトの言葉だった。質問をした彼は、Mくんがそのゲームをこよなく愛していることを知らなかったので、ただ単に会話に混ざりたくて聞いただけかもしれない。しかし、熱心な信者のMくんには、おそらくそれが否定的な言葉に聞こえたのだろうね。
 熱心な信奉者は、すぐさま異教徒を拳で殴りつけた。悪気のなかった異教徒も、当然応戦する。教室は一瞬にして、ある種の宗教戦争と化したんだ。
 戦争自体は少ししてどうにか収まった。しかし、どう考えても先に手を出したのはMくんだ。彼は弁明も虚しく、悪者にされてしまった。
「なんなんだよ、こいつは。ったく」
“異教徒”の彼は、殴られた頬を抑えてMくんを非難した。

 翌日からMくんは、ゲームの話をしなくなった。その代わり、ありとあらゆる迷惑行為を働くようになってしまった。暴力は振るう、いたずらもする、先生に怒られても何のその。ほんの1日で、本当に人が変わったようになってしまったんだ。僕らは、当然のように彼を敬遠しだす。彼は、すっかり一人ぼっちになってしまった。見るに見かねた先生が、Mくんの家での様子を見てくるように僕に言う。あまり気乗りはしなかったが、僕は渋々その役目を引き受けた。
 Mくんの家に遊びに行くのは、小学生以来だった。彼のお母さんは、久々に友人が遊びに来たので、手厚くもてなしてくれる。僕は、何があったのかMくんの部屋で聞いてみた。Mくんは、僕になら打ち明けられると思ったのか、ポツリポツリと心中を吐露し始めたんだ。

 Mくんいわく、あのけんかの後、彼が自分の悪口を言ったことが心に引っかかったそうだ。ゲームの悪口を言っていた彼が、けんかの後はゲームではなく自分の悪口を言っている、それがMくんには素晴らしいことのように思えたんだ。裏返せば、みんながMくんの悪口を言っていれば、その間、誰もゲームの悪口は言わない。よし、ならば先手を打ってみんなに嫌われてやろう、愛すべきゲームを誰もがけがさぬように。

 Mくんはゲームを愛するあまり、この奇妙としか思えない論理を実際に行動に移したんだ。

「君もこのゲーム、好きだろう? 一緒にみんなに悪口を言われよう。そして、このゲームを守るんだ」

 心底真面目な顔でMくんは、この宗教に入信するよう僕に勧誘した。僕は、うつむくことしかできなかった。

 中学を卒業して以降、Mくんがどうしているのかは分からない。だが、彼がまだ上述の論理で、人に迷惑をかけている可能性は否定できない。


 もちろん、このこと一つを取って迷惑行為を是認することはできないよ。でもね、Mくんのことを考えると、なんというかな、考えがまとまらなくなってしまうんだよ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔