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はなもあらしも ~颯太編~

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 * * *

「何あれ!? さっきのあの氷江とか言う人と橘とか言う人! それに道場の門下生も皆感じ悪い!!」

 笠原道場を出て、ピシャリとその門が閉ざされた瞬間、ともえはわざと大きな声でそう言って地面を蹴った。

「落ち着けよ」
「落ち着け? 無理! だって私! 私……悔しいんだもん」

 急に語尾に覇気がなくなると、ともえはくたりと項垂れる。燃料が切れたのかと颯太がともえを伺うと、涙を瞳にためて鋭い目つきで前を見据えた。

「見た目で判断するのはどうかと思うけど、それでもあの橘って人も氷江って人もすごく強いって分かった……それに比べて私は、彼女の言う通り田舎道場の人間だし、多分あの人達にはまだ敵わない。でも、相手が何も言えないくらいの雰囲気を持ってたら日輪道場の悪口なんて言わせなかったのにーーー」

 心の底から悔しそうに言うともえに、颯太は苦笑した。ともえは自分が馬鹿にされた事よりも、日輪道場が馬鹿にされた事に腹を立てていたのだ。なんとも気概に富んだ少女だ。

「オレだってもっと言ってやりたかったけどよ、我慢したぜ」
「あ……」

 ともえの事を庇ってくれた事や、最後に橘に言った颯太の言葉は、年下とは思えない程威圧感があった。
 颯太は曲がった事が嫌いなのだ。もちろんそれはともえもだが、最初に暴れる可能性を示していた颯太自身が怒りを堪えて出来る限り大人な対応をしてみせたのだ。ともえもいつまでも腹を立てている段ではない。
 すうっと先ほどまでのどうしようもない怒りが落ち着くと、颯太が後ろを微かに振り向いて言う。

「絶対オレ達であいつらをぎゃふんと言わせてやろうぜ?」
「うんっ! 負けたくない! 絶対勝とうね、颯太!」
「おうよ!」

 互いの気合いを確認し合うと、どちらからともなく走り出した。
 これから本格的な修行が始まるのだ。
 絶対に負けたくない、あんな事はもう二度と言わせない。そう、心に誓って。