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はなもあらしも ~真弓編~

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第五話 真弓の想い


 今日も早朝の空気はとても清々しく、白み始め行く空を見上げて大きく深呼吸をした。

「はあ〜。今日も良い天気だ」

 が、真弓は得体の知れぬ感情に、ほんの少し戸惑っていた。
 体調が悪いということはない。同じ時刻に目が覚め、いつものように顔を洗って着替えを済ますと道場へと向かった。
 昨日はともえが出先で怪我を負わされるという事件が起こった。恐らく犯人は笠原道場の門下生だろう。そんな卑怯な事をする連中に対して怒りを感じたが、証拠がないのではどうしようもない。弓で決着をつけるしかないのだ。
 だが、真弓の中に渦巻くこの感情は怒りとは全く異質のものだ。
 一体何か、その正体を探ろうとするが一向に分からない。
 近づく的場から聞こえて来る矢が的を射るあの音に、一瞬ぴくりと反応し、直ぐさま入り口へと走る。
 案の定、薄暗い道場で一人弓を構えていたのは、那須ともえだった。

「ともえちゃん!」

 昨日の晩に怪我をしたばかりだと言うのに、ともえは真弓の少し大きめの呼びかけに笑顔で振り向く。

「あ、真弓さんおはようございます」

 慌てて駆け寄る真弓に、しごく当然のように挨拶をすると、ともえは再び矢をつがえた。

「ちょっと待って」
「はい?」

 ともえの手を止め、真弓は少し強引に弓と矢をともえの手から奪い取った。

「ともえちゃん、足は? まだ痛むだろう?」
「大丈夫です。添え木をして包帯でガチガチに巻いてありますから、問題ありません」
「問題ないって……今日はまだ道場に立ったら駄目だ。無理をして酷くなってはいけないからね」

 真弓に叱られたのが悲しかったのか、力なく俯いてそっと上目遣いに真弓を見上げる。

「でも、時間もないし少しでも練習したいんです……」
「駄目だよ。聞き分けのない子は無理やりにでも部屋へ連れ帰る事になるけど、それでもいいのかい?」
「そっ、それは困りますっ!」

 昨晩真弓に抱きかかえられて医者へ行った事を思い出したらしいともえが顔を赤らめて首を振る。しかしすぐ口をきゅっと結んで真弓を見据えた。