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ウチのコ、誘拐されました。

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「……武東。」
「……はい。」
いかにも困った、という表情でため息を吐かれ、武東は面目ないとうなだれた。
「すいません……ちょっとアツくなっちゃって。」
「アツくなっても捜査内容は喋っちゃダメなの。気をつけろよ。」
「……面目ない。」
しょげる武東にもう一度ため息を吐いて、渡良部はさて、と表情を改めた。
「まあ猫だしな……まあいいや。とりあえず、報告。」
「あ、ハイ。」
誘拐現場。状況。おおよその時間。
そこにいた不審車。及びその特徴。
つらつらと手帳を読み上げる武東を、渡良部がふと遮った。
「現場に白い不審車?」
「あ、はい。形状は一般的な四人乗りの流線型のものらしいです。訊き込みしたうちの一人が若い男らしき人影を車内に見ていますね。」
「ふうん……」
机に目線を落としていた渡良部が、それを聞いて顔を上げた。
「若い男、ねえ。……そうか、で?」
「現場でニボシ見つけました。まあ、だからなんだ、ですけど。」
「猫釣るのに使ったんだな。まあ、よく集めた方だろ。おれらオマワリだし。」
落ち込む武東を慰めるように渡良部は言ったが、武東は首を横に振った。
「いいえ、これじゃあ、月下会を追い詰める証拠にはならないですよ……」
「月下?……ああ、それじゃあとりあえず、こっちの報告な。」
一瞬考える顔をしてから、渡良部はひらりと書類を掲げた。
「まず脅迫状。指紋が見つかった。」
「え、すごい!」
「……」
武東は素直に感動したのだが、渡良部は何故かものすごく微妙な表情になって、そそくさと書類を捲った。
「武東、お前山井さん、知ってるか?」
「あ、はい。知ってますよ。」
どうも交番を休憩所と勘違いしているフシのある元気な女性を思い出して、武東は頷いた。
「そ、そのオバサン。でな、あの人のアパートの隣から、今日の昼過ぎくらいから変な音……音っつーか声か。変な声が聞こえるんだと。」
「変な……声、ですか。」
「おお。」
ニヤ、と渡良部は口の端を吊り上げた。非常にワルい顔だ。
「ギャー、だかガオー、だかっつう感じで、熊じゃねえかっていうんだが……熊じゃねえだろ。」
「……あ!」
渡良部の言わんとすることに気付いて、武東はぱっと顔を上げた。
「猫!」
「そ。多分ソレだ。」
渡良部は一層悪そうに笑むと、一枚の書類を示した。
「この紙。山井さんの隣に住んでるのがこの男だ。名前は祝 盛次。調べたら前科があって、簡単に出てきた。」
「イワイ、セイジですか。」
写真に写っているのは、23,4才位の若い男だった。髪を金色に染め、いかにもワルそうな顔で写ってはいるが、どこか風采の上がらない顔立ちをしている。いわゆる三下タイプだ。
「前回は恐喝暴行で挙げられてる。ここらでちっちゃく暴れているチンピラだそうだ。」
「どんぴしゃですね。」
なんだかうまく行き過ぎているような気もするが、これも運命、なるようになるのだ。
「指紋は今清水のおっさんに照合してもらってるところだが、ほぼ決まりだろ。」
「すぐその住所に向かいます!」
武東は勢いよく立ち上がった。頭の中で、先程の京花の悲しげな声がリフレインする。
――どうか、どうか早く助けてあげてください……お願いします……!
許さない。絶対に許さない。
武東はもう一度、写真の男を強く睨み付けた。

祝 盛次。
絶対に、許さない。