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ウチのコ、誘拐されました。

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第七章:祝 盛次の発憤


――もう、やだ。
祝 盛次はほとほと疲れ果てていた。
計画を立てるまでは良かった。カスカベの家から猫を攫い、身代金をせしめる。とてもわかりやすい。
相手が人間でない分に捕まえるのも監禁しておくのも楽だろうと思ったのだが、そもそもそれが間違いだったらしい。
捕獲の際には盛大に引っかかれ噛み付かれ、挙句の果てに大声で騒がれて、近所にばれたかもしれない。
なんとか激闘の末に猫を捕まえて車の中に放り込んだら、所狭しと駆け回られた。運転席の足元にもぐり込まれた時には、正直死ぬかと思った。シートで爪を研がれたし。大事にしている車だったのに。
それでもなんとか家まで辿り着けたのは、全く奇跡としか言いようがない。
そして、今だ。
じたばたする猫をなだめながら自分の部屋に入り、あらかじめ買っておいたケージに激闘の末にやっとの思いで猫を放り込んだ。だがヤツはそれが気に入らないらしく、それはもうものすごい勢いで鳴きまくり、騒ぎまくったのだ。
その声や物音が、まあものすごい。
猫なんて、所詮可愛らしくにゃーにゃー言うだけの生き物だと思っていたのだが、見事に裏切られた。
ぎゃー、というか、がおー、というか。
もしかしたら攫ったのは猫ではなく、実は猛獣の類だったのかと思うぐらいの力と声。
それもそれで恐ろしいのだが、祝にとって本当にその時恐ろしかったのは、隣人に気付かれる事だった。
隣には、中高年の夫婦が住んでいる。その女房の方が、おせっかいの世話好き、ゴシップ大好き、詮索大好きという典型的な「団地のおばちゃん」タイプの人間で、いつこの物音を聞かれて部屋に乗り込まれるか、そしてこの状況を見てなんといわれるか。気が気でなかった。
ああ、イライラする。
傍では相変わらず猫がギャーギャー言っている。何が言いたいのか理解できるわけがないし、とてもうるさい。
さっきまではそれでもニボシやカツブシなんかをやれば食べてる間はおとなしくなったのだが、今はもうその手が利かない。ニボシを出してやってもそっぽを向くばかりだ。
「……この、クソネコ……」
おもわず言葉が漏れた。
「フザケんなよ、このクソネコ。」
もう一度、言う。自分の言葉に煽られて、苛立ちが段々と怒りに変わっていく。
ネコが揺らす、金網の、ガシャガシャ言う音。ギャーギャーと騒ぐ泣き声。
うるさいうるさいうるさい。イライラと、怒りが上昇していく。そしてその怒りは、唐突に突き抜ける。
「……殺すぞ……」
思わず自然に出た呟きは、自分でも驚くほど、すんなりと祝に馴染んだ。
そう、殺してやる。
一度そう考えると、殺す事こそ当然のことのように感じられてきた。逆に何故今まで殺さなかったのか。今までの自分が謎だ。
祝は物入れの引き出しから、ナイフを取り出した。ただの棒のようなそれを握ると、ぱしりと凶悪な刃が起きる。
普段物の扱いは雑だが、このナイフだけはいつでも使えるように手入れは欠かしていない。
右手にナイフを構え、祝は左手で慎重にケージの扉のロックを外した。
キイ、と金属の擦れる音に、騒いでいたネコがぴたりと大人しくなる。
――もう、遅ェんだよ。
心の中でそう呟き、祝はナイフを握りなおした。知らず知らず、口角が持ち上がる。
のそのそとケージからネコが出てくる。そう、最初から素直に大人しくしていればよかったのだ。
慎重に、狙いを澄まし、――そして。
「アバヨォ、クソネコ。」

ギャーーーと。
ものすごい悲鳴が響いた。