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八九三の女

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[青天の霹靂]



「なーにやってんだ、俺」

真冬の休日
月見里君に理由も分からず遊園地に誘われ
小鳥遊君は待ち合わせ場所、最寄り駅前に十五分前に到着した

悴む両手をダウンジャケットのポケットに突っ込み、白い息を零す

クリスマス間近の遊園地なんか恋人だらけだろうが
なあにが悲しくて、男二人で出向くんじゃい!

悪態を吐くもクリスマスも冬休みも特に予定もない
年末年始は家族で過ごすしかない子どもだ
精精、貯めに貯めたお小遣いを散財するのもいいかも知れない

部田にお土産、買おう

卒業式には少女に告白するという一大イベントもある
幸せ一杯の恋人達に藁にも縋る思いで肖りたいとも思う
そう思うのもポジティブ思考でいいだろう

月見里君とは幼稚園からの腐れ縁だが
昔からお茶目な性格だったが
最近は特に彼のポジティブ人生が羨ましいと思う事が、多多ある

当然、月見里君のような陽キャになるのは無理だが
成るべくならネガティブよりポジティブがいい

寒空の下、待ちぼうけを食らう
この時間だって言ってみればネガティブ思考の弊害だ

二軒隣のあいつの家に迎えに行くのは造作もない事だ
だが、百パーセントあいつは俺を待たせる

「寝坊したー」だとか「食事中ー」だとか
あいつの母親も姉も当然のように「上がって」と、言う
そうして俺も当然のように断れない

待つ間、俺は母親と姉に囲まれて昔話に花を咲かせる
否、正確には俺をつまみに二人でキャッキャウフフするだけの時間

俺にとっては苦痛の時間だ
花畑満開の、あの時間が陰キャ故に苦痛とは悲し過ぎる

おまけに身支度そっちのけで交ざろうとする、あいつのせいで
苦痛の時間は延長するばかりだ

「おはよう」

不意に、背後から声を掛けられて小鳥遊君の背筋が伸びる
明らかに知っている声、振り返らなくても分かる声

「部田?」

それでも語尾に耳垂れマークを付けて振り返る
名前を呼ばれた少女が頷きながら、携帯電話の画面を覗く
待ち合わせ時間、十分前

「月見里君は?」

「え?」

駅前をぐるりと見回し再度、訊ねる

「月見里君は一緒じゃないんだ」

「え?」

「叔母さんはレンタカー手配してから来る」

「え?」

小鳥遊君は思いの外、会話をしてくる少女に戸惑うも
なんとか質問された事に答える

「ああ、あいつ時間にいい加減だから」

「分かってるのに待ち合わせに早目に来るんだ」

少女の目線は目の前のロータリーに向いている

言われてみれば、そうだ
あいつが毎回、遅刻するのは分かっているのに
どうして自分は待ち合わせ時間、十五分前に到着するんだ

馬鹿だから?
真面目だから?

「小鳥遊君らしい」

小さく笑う、少女の横顔に小鳥遊君は言葉もなく眺める

駄目だ
今、口を開いたら「好きだ!」以外、言えそうにない

慌てて、呆けた顔を逸らす
喉元まで出掛かっている言葉を飲み込もうとするが
落ち着いて考え直してみる

逆にチャンスだろう、と
それこそ馬鹿正直に卒業式まで待つ必要はないだろう

言え
言うんだ
「好きだ」って告白するんだ

意を決した小鳥遊君の
「部田」の言葉をかき消すように月見里君の声が聞こえる

「お待たせー!」

少女の姿越しにバス停留所付近を見遣ると
右手を振り乱しながら駆け寄ってくる月見里君の姿が見えた

顔を向け少女も軽く右手を上げ、応えると携帯電話の時計を見る

「五分前」

そうですか
遅刻常習犯が時間通り所か、五分前に来るなんて上出来だな
ああ、そうですか

肩を落とし、鼻で笑う小鳥遊君の背後から
今度は乗用車のクラクションが遠慮がちに鳴らされる

振り返ると、駅前ロータリー手前で停車する
乗用車の運転席から叔母が是又、お茶目に手を振っていた

その姿に月見里君は「待って待ってー!」
と、叔母に合図するとすかさず携帯電話を取り出し撮影する
勿論、叔母もノリノリでポーズを決めていた

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫