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めいでんさんぶる 2.幽霊兎の葬送曲

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「美珠々は皆の部屋から洗濯物を取ってきて聖良と一緒に洗濯しておいで」
それを見かねたとめさんは調理台での作業を止めないまま田井中さんに言った。
「分かった」
田井中さんは私の両手にトマトを乗せると頑張ってね、と言い残して厨房を出ていった。
「今更だけど美珠々はメイド、って言うけどまだ小さいから出来る事少ないんだよね。悪いけどサラダは茉莉ちゃんに任せて良いかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「若いからやる気だけは一級なんだけどねぇ」
苦笑しながらもオニオンスープに塩胡椒をパパッと振っていくとめさん。
「これからも何か手伝う事ないか、って聞かれたらどんな簡単な仕事でもいいから与えてやって。すごく喜ぶから」
「はい」
とめさんって優しいなぁ。

料理が出来て洗い物に取りかかっていると三井さんが厨房へやってきた。
「おはようございます、三井さん」
「お早う、久隅さん。とめもお早う。朝食は出来ているみたいね」
「うん。そこに」
銀のカートの上に料理が乗せられ、その上からは銀製のふたで埃が入らないようにしている。
「お疲れさま。後は持っていくから貴女達は先に朝食をとりなさい」
「それじゃあ、遠慮なく。他に今空いてる人いる?」
「そうね、新垣さんと田井中さんは洗濯中、だけど田井中さんは呼んでこようかしら。後は佐遊御さんがさっき御主人様のお着替えを済ませた所だから空いたんじゃないかしら。こっちに来るようにと言っておくわ。朝食が終わったら久隅さんは私が呼びに行くまでここでしっかり働いていなさい」
そう言うと三井さんはカートを押して出て行ってしまった。
「皆さん忙しいみたいですね」
「朝は特にね。さ、茉莉ちゃん、四人分のお皿出して」
「はい」
私ととめさん、田井中さんに後一人、佐遊御さんだっけ。まだ会った事のない人だ。
「あれ」
お皿を出しているとふと私は調理台の隅に何か布で包まれた物を見つけた。
「とめさん、それは?」
「ん、お弁当」
「……ですよねー」
それは見てなんとか分かる。ピンクの花柄模様のお弁当箱包みだもの。
「それは誰のなんですか?」
御主人様が外に出るご用、なら納得はいくしピンクの色をしていてもなんとか見逃せる。
でもお弁当、っていうのは……サラリーマンじゃあるまいし。
「やだなぁ! これは美珠々のだよ、あの子まだ中学生だし!」
とめさんは私の思考を読みとったようでわはわはと少々お下品に笑いだした。
「なんかさ、巴の言っていた事分かるような気がしてきたよ。……なるほどね、しっかり者だけど何か抜けてる、ね」
上司揃って私の事そういう風に話してるんだ。なんかショックだよ。
私はこの環境や人に知的好奇心や探求心を揺さぶられ、それ故の考え事に少し真剣なだけのごく普通の女の子ですよ。
この研修を終える頃にはそんな事言わせないようになってみせるんだから!
……今気が付いたけれどとめさんは朝食を作る傍ら田井中さんのお弁当も同時進行で作っていた事になる。しかも今日の朝食にはお弁当に詰めていけるような物はないからおかずも一から作っていたわけだ。どおりでこんな簡単な朝食にとめさんがせっせこ動いていたわけである。やっぱり関心しました、とめさん。
しばらくして厨房の扉が開いた。
「えびちん、りっちょん、ご苦労様!」
「遅くなって済まない。早く朝食にしようか」
入ってきたのは田井中さんと執事服を身に纏ったボブカットに華奢な背の高い美男子!
ここには執事もいるんだ。
執事さんは私に気が付くと、
「ああ、君だね。昨日から研修で来ているって子は。僕は佐遊御羅門(さゆみ らもん)、どうぞよろしく」
恭しく挨拶され、少し焦ってしまったが、
「久隅茉莉ですっ、こちらこそよろしくお願いします」
なんとかきちんと挨拶を返す事ができた。
「りっちょん、らもっち、そんなのは後で早く食べようよ!」
痺れを切らした田井中さんが催促しだしたので、
「そうだね。早く食べて準備しないと田井中さんは学校に遅れてしまうからね」
と佐遊御さんは静かに調理台の席に座った。
昨晩と同じようにとめさんのかけ声で皆で頂きますと手を合わせる。
「やっぱりえびちんのご飯は美味しいねー!」
「たくさん食べて大きくなりなよ~?」
という会話等ありきの中、
「茉莉さんはもう使用人全員には会ったかい?」
と佐遊御さんが私に話題を出してきてくれた。
「えーと……、三井さん、とめさん、田井中さん、佐遊御さん……」
指を折りながら数えていく。
ここには四人メイドがいる、って昨日三井さんが言っていたからこれで全員? ぁ、でも佐遊御さんは執事だからメイドにはカウントしないんだ。
「じゃあまだ聖良さんには会っていないんだね」
あ、そうそう。時々三井さんやとめさんがそんな名前を口にしていたんだった。
「その聖良さん、って人は忙しい方なんですか?」
「何せ御主人のお気に入りだし、事ある毎に傍に置いておきたがれてるからなかなか放されないのさ。それにあの子は仕事は丁寧だけど遅いから」
とめさんが気の毒そうに答える。
「役職は何を?」
「うさちゃんはハウスメイドとパーラーメイドの兼業だよ!」
田井中さんが答える。聖良さんは"うさちゃん"なんだ。
パーラーメイド、っていうのは接客専用のメイド。接客が仕事だから若くて綺麗な人を採用する事が多いと聞くからその聖良さんも綺麗な人なんだろう。なんたって御主人様が放さない位の人なんだから。
「少し変わった所があるけど真面目で良い子だよ」
佐遊御さんがフフッと笑う、けれどこの館に変わった人なんていっぱいいるなんてのはここで口が裂けても言えない。
「ん、じゃあまだ御主人にも会ってないね?」
とめさん、そのお箸で宙を書く行為は行儀悪いです。
「そうだね。私は御主人様の傍にいる事が多いけど茉莉さんは一度も見なかったね」
佐遊御さんは御主人様の身の回りのお世話をする執事なのかな?
「もしかしてご挨拶に行った方が良かったですか?」
私が慌てて聞くと、皆さん気まずそうな顔をして顔を見合わせた。
え、何か問題でも?
「別に挨拶しに行かなくても大丈夫よ。下働きのメイドがわざわざ出向かなくても」
「とめさんの言う通りだね。メイドの人事権は全てメイド長が握っているからメイド長が何も言わないようなら挨拶はなくてもいいと思うよ。むしろ今はメイド長に媚び売っておいた方が先決だろう」
「らもっちの言う通り! ……でもでも、どうしてもって言うならもえりんに言って会わせてもらったら? もえりんもダメダメって言うと思うけどね」
……どうして皆そんなに苦い顔して御主人様に会うのを駄目みたいに言うんだろう?
とりあえず研修期間の間は御主人様と会わない限り皆が言った通り、わざわざ挨拶はいいや。会えばきちんと挨拶するしもし研修で合格すれば正規メイドとして挨拶に行けばいいんだし。
「ごちそうさま。さて、美珠々はそろそろ学校の支度をしないと遅れるぞー?」
「ええ? もうこんな時間!? 急がないと!」
田井中さんは掛け時計を見るとご飯を一気にかき込み、
「ごちそうさま! 着替えてくる!」
「ちょっと待った。美珠々お弁当忘れてるよ」
とめさんが田井中さんの制服の襟を掴んで田井中さんの手にお弁当箱を置いた。