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めいでんさんぶる 2.幽霊兎の葬送曲

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2.幽霊兎の葬送曲(レクイエム)



ピピピピ、ピピピピ
「ん、んん」
このお屋敷に似合わない電子音を発する目覚まし時計を目は閉じたまま、手だけで探りながら止める。
少しの間ベッドの中で微睡んでからゆっくりと目を開けて目の前に広がる天井はいつもと違う事に気付く。
よし、昨日の事ちゃんと覚えてる。
研修で昨日からお屋敷にお仕えしているんだよね。
頭を整理してからよし、と起き上がる。
「すぅ、すぅ、すぴー」
……え?
なんだか私のじゃない寝息が聞こえるぞ? まあ、私は起きているから寝息なんてたてないのは当たり前だけど。
そして隣に人の気配がある事に気付き、目をやると、
なんかネグリジェを着た女の子が猫のように丸くなって眠っているではないか!
「えぇっ!? 誰!?」
思わず叫んでしまっていた。
「んにゃ、……んむぅ」
しまった、女の子は私の声に起きてしまったみたいで目を擦るとむっくりと起き上がって、
目があった。
「……だぁれ?」
見た目小学生5、6年生位の女の子がぷっくりとした桃色の唇を動かして呟く。
えーと、まずは私から聞きたい所なんだけど、をぐっと堪え、
「私は久隅茉莉。昨日から研修生という事でお仕えしてるの」
「なんで田井中さんのお部屋にあなたがいるの?」
右側が長く、左側は短く揃えた奇抜な髪型をした少女は目が冷めたようで大きくて丸い瞳を私に向けて言った。
「ここは田井中さんのお部屋で誰だっけ、くすこさんのお部屋じゃないよ?」
「……久隅です」
どうやらこの子は田井中と言う名前で自分の事を田井中さんと言うらしい。
でもどうした事か。昨日確かに三井さんの手配でとめさんに案内されたこの部屋は私の部屋のはずだが……。
「田井中さん、確かにあなたはここのお部屋の子なの?」
「うん」
はっきりとそう答えられ、どうしたものかと思案していると扉が開いた。
「茉莉ちゃん、どうしたのさ。大声上げて。栄養ドリンクが効きすぎたの?」
さっき私が叫んでしまったのに起きたのか、とめさんが目を擦りながらやってきた。
「おはようございます、とめさん。……実は」
「あっ、えびちん! おはよー!」
私が話そうとすると田井中さんはとめさんに元気良く挨拶をした。
「あ、美珠々。なんでこんな所で寝てるのよ。ここはあんたの部屋じゃないって言ったでしょ」
どうやらやはりこの部屋は田井中さんの部屋じゃないらしい。
「あの、この子は……」
「ああ、この子は……一応ここのメイドだよ。訳有りの子でね」
田井中さんはとめさんの元にやってきて頭を撫でられている。
一瞬、御主人様のご子息とも思ったが一応メイドみたいだからどうも違うらしい。……孤児で引き取られた、とかなら訳有りというのはわかるがその辺りを聞くのは地雷を踏みかねないから遠慮しておく。
「ほら、茉莉ちゃんに自己紹介」
とめさんに促されて田井中さんは私の方を見ると、
「田井中美珠々(たいなか みすず)、13歳です! よろしくね、りっちょん!」
「りっちょん!?」
「うん、そうだよ。茉莉なんでしょ? ならりっちょんだよ!」
屈託無い笑顔で言われるとそうだね、と思うしかない。別に嫌なあだ名じゃないから良いけど。
「ま、紹介も終わったし着替えるよ。部屋の事はちゃんと言い聞かせておくから」
そう言うととめさんは美珠々ちゃんを連れて隣の部屋に戻っていった。
ちょっと驚いたけどよく考えれば人と出会っただけ。そんな事まだ来て間もないなら当たり前だよ、と自分に言い聞かせながら着替えを始めた。
数分後、とめさんと美珠々ちゃんが私の部屋にやってきた。
「美珠々ちゃん、制服似合ってるね」
「りっちょん、馴れ馴れしいわよ。私の事は田井中さん、って呼んで!」
私の事はりっちょんなのに。
「田井中さん、制服似合ってるね」
「ありがとう♪」
今度は素直に喜んでくれた。
「美珠々は巴に憧れてるのよ」
三井さんに憧れるのは分かるけど本当の三井さんは制服が似合っていると言われてもこう素直に喜びはしないだろうな。
だからって田井中さんみたいに可愛く喜ぶ三井さんは逆に不気味だ。やはり可愛いものは可愛く。
「でもえびちんはどれだけ言っても田井中さんって呼ばないから、ぷんぷんだよ!」
「悪いけど茉莉ちゃん、私の髪を編んでくれない? 実は編むの難しくて」
田井中さんが頬を膨らませたのには無視してとめさんが言った。
「はい。良いですよ」
とめさんが椅子に座ってその後ろに私が立つ。
「それなら田井中さんがりっちょんの髪を編むね! りっちょん、しゃがんで!」
「あ、うん」
田井中さんに言われた通りしゃがむ。
「ここに二つね?」
私に確認をとってから田井中さんは丁寧に三つ編みを作り始めた。
「今日はとめさんは制服じゃないんですね」
とめさんは今日は白いコックの服に赤のスカーフを巻いた服装だ。
「昨日は外に出ていたからね。いつもはこうよ」
「確かにコックですね」
私は昨日見た通りの海老おさげを作ってみせた。
「ありがとね」
「りっちょんもできたよ!」
田井中さんが胸を張って言う。
「ありがとう、田井中さん」
さすがに小学校低学年ではないので綺麗なおさげを作ってくれていた。
最後に田井中さんは自分の髪を長い方の髪だけをサイドで結び、前髪をほぼ全て左に持ってきてピンで止めた。
開いたおでこがとてもチャーミングで可愛い。
「さ、仕事だよ。頑張ろう!」
「「おー!!」」
とめさんのかけ声に私と田井中さんは後に続いた。
……部屋を出る時見えたのだが私の名前が書いてあるネームプレートの上から張り紙がしてあって"田井中"と可愛らしい字で書かれていたがそれについては何も触れないでおく事にした。三井さんが気付いたらどうにかしてくれるよね、と他人任せにして。

「まずは今朝の献立を言うよ」
厨房の壁の一部がホワイトボードになっている場所にとめさんはキュッキュッと青いマーカーで字を書いていく。
「ハニートーストとオニオンスープに若鶏とトマトのフレッシュサラダね」
田井中さんがとめさんの字を追いかけて口に出す。
もう聞くだけでよだれが出ちゃいそうなメニューだよ。
「ハニートーストは私が作るから。オニオンスープは昨日下拵えだけは済ましておいたから仕上げだけね。サラダは若鶏を蒸して小さく裂くだけ、レタスとその他野菜をを切っておしまい。簡単だから二人とも出来るね?」
「「はい!」」
私と田井中さんが返事をするととめさんは材料の量と分担をぱぱっと私達に割り振っていくと早々に作業を開始した。
さっきまでのとめさんとは違ってコックとしてのとめさんでとても真剣な顔で手早く正確に仕事をこなしていく。
私もとめさんに劣らない勢いでサラダを作っていく。
「りっちょん」
「どうしたの?」
田井中さんがトマトを持って困った様子でいる。
「トマトの皮を剥くのってどうするんだっけ?」
「え? ゆがくと皮剥きやすくなるけど……」
もしかして田井中さん料理初心者なのかな?
「ゆがく?」
田井中さんは首を傾げながらまん丸い瞳を向けてサイドでまとめた髪をふわっと跳ねさせながら私の言葉を繰り返した。
駄目だ。きっと分かっていない。