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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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 短く囁いて炎麗夜は目を閉じた。
 あの中で何人が助かったのか?
「だいじょぶですって、みんな助かってますよ。だってもうここに三人も助かった人がいるんですから!」
「…………」
 おそらくここにいる三人は〈デーモン〉による力が大きいだろう。
 では、無力な人間はどうだ?
 激しい海流に呑み込まれ、為す術があっただろうか?
「そうさ、みんな無事に決まってらあ。おいらは方向音痴だし、こっちから探しに行かなくても、向こうが探してくれるさ。きっと……な」
 まだ炎麗夜の顔には影が差している。
 無理をしているのはケイの目にも明らかだった。もうケイはなにも言えない。
 炎麗夜は無理にでも気を取り直そうとしているようで、再びアカツキの刻印を調べはじめた。
「契約できる〈デーモン〉は一体って決まってんだ。二体以上の契約は、どういうわけか〈リンガ〉の身が持たない。中には裏技でオッケーな奴もいるけどな」
「裏技?」
「そうさ、ウチの風羅の〈ムゲン〉は〈変装〉。変装って言っても、服や髪型が変わる程度じゃあない。完全に相手をコピーしちまうんだ。だから〈デーモン〉との契約までコピーできる。ベヒモスもそうやって動かしてたのさ」
「でもこの人はこんなにいっぱい」
「そういう〈ムゲン〉なのかもしれないねえ」
 多くの契約ができるのか、それとも……。
 アカツキの躰が微かに動いた。
 それから先は瞬きをするよりも早かった。
 炎麗夜はアカツキを止めようと手を伸ばしたが届かない。
 刀を拾い上げたアカツキはその切っ先をケイに向け、さらに女形〈デーモン〉を守るように横でひざまずいた。
「紅華になにをした!」
 怒りを露わにして叫んだアカツキ。
 女形〈デーモン〉に炎麗夜は目を滑らせた。
「その〈ヨーニ〉のことかい?」
「……この道具はルシファーだ。〈ファルス〉合体!」
「させるか!」
 炎麗夜はアカツキに手を伸ばしたが、放たれた閃光と風圧によって吹き飛ばされた。
 紅い花魁衣装を身に纏った妖艶たる鬼。
 しかし、アカツキはすでに疲労を露わにし、青黒い顔の目元はさらにどす黒い。
 アカツキの額から汗が流れ、床で四散したと同時に刀が輝線を描いた。
 切れがない!
 なんと、炎麗夜は刀を素手で握って受け止めた。
「おいらの〈崇高美〉を前にして、無様な野郎は足下にも及ばないよ」
「うぬぼれたその足下を掬ってくれる!」
 刀を受けた炎麗夜の手が押されはじめた。斬ることはできなくとも、力で押すことはできる。
「半死にしちゃやるじゃあないか」
 炎麗夜がニヤリと笑った次の瞬間、彼女は脚を大きく蹴り上げた。
 股間を蹴り上げられたアカツキが眼を剥く。
「ぐあっ!」
 アカツキがどんな一流の戦士だろうと、鍛えようがない急所。
 悶絶しながらアカツキは床でもがいた。
 炎麗夜は蹴り上げた足を手で払って見下した。
「汚ねぇもんを蹴っちまったな。まだやるなら外に出な、そこでたっぷり可愛がってやるよ。殺しはしない、まだな。死ぬ前にたっぷり地獄を味わいな」
 炎麗夜はケイを連れて小屋の外に出た。
 歯を食い縛ったアカツキは、床に刀を突き立て躰を起こした。
「地獄がどうした……俺様は修羅だ、修羅の歩む道は常に冥府魔道」
 重い躰を引きずりながらアカツキも外に出た。
 炎麗夜たちは崖のすぐ下、砂浜で待ち構えていた。
 不安そうにしてケイは炎麗夜から少し離れた場所で佇んでいる。その瞳は、哀しみで満ち溢れていた。
「どうしても……(こうなっちゃうのかな。まただれかがあたしの前で傷つく。敵味方なんて関係ない、ここから離れたいけど……それもあたしにはできない)」
 ケイが俯いていた顔をあげると、アカツキがなにか言いたそうにこちらを見ていた。
 しかし、黙して語ることはなかった。
 刀を構えたアカツキ――戦いを続ける気だ。
 迎え撃つ炎麗夜は拳を鳴らした。
「どっからでも掛かって来な」
 崇高なる美を崩さぬ余裕。
 無言でアカツキは斬りかかった。その表情に余裕はない。
 刃が半月の輝線を描いた。
 その攻撃を飛び退いて躱した炎麗夜は、そのままアカツキの懐に飛び込んだ。
「美しい陽光に手を伸ばせ(ビューティフルサンシャインアッパー)!」
 炎麗夜の拳がアカツキのあごを殴り上げた。
「ぐッ!」
 歯を食い縛ったアカツキは宙に飛ばされ、無様にも砂浜に叩きつけられた。
 指の間から零れ落ちる砂を掴みながら、アカツキは立ち上がろうとした。だが、立ち上がれない。膝をつき、手が大地から離れない。
「まだだ……まだ俺様は……」
 唾のように血を吐き飛ばし、アカツキは顔を上げて野獣の眼を輝かせた。
 その眼は死んでいない。
 心は折れずとも、その躰がいうことを聞かない。
 動けないアカツキの顔面を炎麗夜の足が容赦なく蹴り上げた。さらに間を置かずに頭部を踏みつぶした。
 ケイは手で顔を覆った。
 砂を血と共に口から吐き出したアカツキは、手を炎麗夜の足首に伸ばそうとしたが、その手すらも踏みつぶされた。
「てめぇに殺された女たちの苦しみはこんなもんじゃねえ!」
「…………」
「なんか言えよ!」
「…………」
「あんたただの賞金稼ぎじゃあないだろう。巨乳に怨みでもあんのか、なんでそこまで執拗に巨乳の女を殺すんだ!!」
「俺様は豊満な胸を愛している」
「は?」
 驚いた炎麗夜に一瞬隙ができた。
 素早く立ち上がったアカツキの拳が炎麗夜の顔面を目掛ける!
 触れることは叶わない。
 だが、吹き飛ばすことはできる!
 炎麗夜が背を反らせながら吹っ飛ばされた。
 砂の上で跳ねた炎麗夜の躰。その揺れる超乳をアカツキは愛おしそうに見つめていた。
「だが顔には興味がない」
 それが最後に振り絞った力だった。
 アカツキはゆらめきながら砂に顔面から突っ込んだ。完全に気を失ったのだ。
 炎麗夜がアカツキに近付こうとしたとき、天が妖しく輝いた。
「危ない!」
 ケイが叫んだ刹那、光の柱が天から落ちてきた。
 巻き上がる砂。
 雷が落ちるように、それはあまりにも一瞬の出来事だった。
 穿たれた砂浜。
 まるで隕石でも落ちたような穴だった。
 しかし、その中心にはなにもない。
 そこにいたいたはずのアカツキの姿が跡形もなく消えていた。
 唖然とする炎麗夜とケイ。
 なにが起きたのかまったくわからなかった。