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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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このコーヒーを飲み終えたら

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あの日の夕方



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 脱線事故当日の1月15日 午後5時15分 高宮発の下り線快速電車の車内には、近隣高校の生徒が大勢乗っている。通勤電車のベンチシートに深く腰掛ける生徒も、他の客が前を通る時にはその足を引いた。車内は少々ざわついていた。それもそのはず、架線事故があって、その復旧のためにダイヤは乱れていたからだ。

 下村達也は、3人の作業員と共に鉄道架線現場にいた。朝から風が強く、昼前には雪も降り始めている。
「風が強いからビニールシートが飛んできて、絡まったんだな」
 その復旧のために架線への送電はストップされていた。達也らは作業用の大きな脚立を立てて、架線にかかった障害物は難なく撤去された。
 周辺の安全確認は、立ち会った多賀電鉄の安全監視員によって行われた。それら復旧作業のため、運行がストップしていた2時間の間に、雪はさらに強くなって行った。
 達也は作業道具を同僚らと一緒にトラックに積み込むために、高架から長いスロープになっている線路上を歩いて、地上まで降りた。
 やがて安全確認は終わり、電車が走り始めた。上りの普通列車が徐行しながら、作業現場の高架を上る姿を、達也はトラックの横で見ていた。そしてもう一編成その後に続いて、少しスピードを上げて通過して行った。

「おい下村、板がないぞ。お前どこにやった?」
「え? 俺、回収してないですよ」
「なんだって!」

 彼らは高い架線にアクセスするために使用した大きな脚立をトラックに積みながら、その作業に使用していた鉄板がないことに気付いた。

 ただならぬ空気がその場に流れた。

 作業員たちは脚立を立てる際、その不安定な足場に鉄板を敷いていたのだが、それは下り線の安定した二本の線路に渡すようにして設置していた。そして脚立を撤去した後、それも回収するはずだったが、彼らはそんなことをうっかり忘れてしまっていた。
「まずい! すぐに電車を停めないと!」
 先ほどの安全確認でも、その板は見逃されてしまった。2時間も電車が停まっている間に、10センチも雪が積もり、薄い鉄板は埋もれて見えなかったのだ。

 そこへ下り電車が走ってきた。達也たちは大慌てで線路に駆け寄り、大きく両手を振りながら、線路の中央を走って高架を駆け上った。運転士は激しさを増す雪のせいで、はるか前方で大騒ぎする作業員には気付かず、問題のあった架線を見上げながら運転していた。そして、問題がなさそうと判断すると、青信号の表示に従い、達也たちに向かって電車のスピードを上げはじめた。

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