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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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このコーヒーを飲み終えたら

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今日の朝



 町田クリニックに着くと、門の前にバンを雑に停めた。ここまでどうやって運転してきたのか、達也は何も覚えていないくらいに慌てていた。車を降りると、そのまま駆け込むようにクリニックのドアを叩いた。しかしこの日は木曜、休診日だったため、誰もいない。敷地内を建物に沿って移動し、クリニック横の町田医師の自宅の玄関から呼び鈴を押した。

 Beeee.Beeee.Beeee.

 古っぽい玄関ブザーの音が響き、家の中の微かな足音で人の気配がした。
「先生、先生! 町田先生。開けてください。下村です」
「どうしたんですか。今日は休診ですよ」
インターホン越しに町田医師の返答があったかと思うと、ただならぬ達也の様子に、すぐに玄関まで出て来てドアの鍵が開けられた。そして町田は、そこに立ち尽くす達也を見て、
「下村さん。何かあったんですか?」
「先生、先生、私は一体どうしたらいいでしょう・・・」


 町田は達也を散歩に連れ出すことにした。二人は河川敷を歩いて話した。
「下村さん、あなたは事故でご家族を亡くされたストレスで、PTSDを発症されていると思われます。無くなったご家族の幻覚を見ておられるのではないでしょうか」
「幻だなんて、昨日まで確かに妻と息子はいたんです」
桜が散り切った遊歩道に目を落としながら、達也は町田の話を聞いていた。
「では、ご家族が他の方と会われたりしているところを、見られていましたか?」
達也は顔を上げた。
「・・・いや、それは・・・」
 この3か月、家族とのコミュニケーションは、ほぼ無かったと言える。紗英が家で何をしているのか、隆志は学校へ行っていたのか、はっきりと解る状況は皆無だった。
「息子さんは中学生とおっしゃっていましたね。今何年生ですか?」
「隆志は、中学2年です」
「この春から2年生ですね」
「!・・あ・・・今は、3年生でした。・・・私どうかしています。息子の進級を忘れているなんて・・・」
町田は小さくため息をつくと、そう話す達也の様子を用心深く観察して、
「本当に3年に進級されたのを、確信を持って言えますか?」
達也は混乱した。自分の息子が中学3年になったのか、はっきりと言い切れないような状況は、異常と言わざるを得ない。妻も生きているという確信が無くなってしまっている。
 達也は考えた、出来るだけ正気を取り戻そうとして、目を固く瞑って、いつから自分が変になってしまったのかを思い出そうとした。
(しかし、本城奈美恵が訪ねて来たのは、隆志が生きている証拠じゃないのか。彼女自体も幻覚なのだろうか。あのニット帽の小包は、どうだったのだろう? 荷物を受け取った記憶があるだけで、その後ニット帽はどこに・・・。それも存在しないのか?)