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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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このコーヒーを飲み終えたら

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水曜日の深夜



「では安全教育はこれくらいにしておいて、現場近くで起こった脱線事故の、その後に取組みについてお話ししますね」
 達也は、鉄道架線工事の応援のため、多賀電鉄の支所内にある、古い会議室で安全教育を受講していた。電気技術の作業とは安全管理がもっとも重要視される。また同じ内容かと思いながらも、欠伸しないように、その退屈な時間をコーヒーなしでなんとか乗り切った。その後、例の脱線事故の話になり、やっと眠気も覚めはじめたのだった。達也は事故対策や今日までの経緯についての説明を受ける中、配られた資料に目を通した。
(死者32名、負傷者85名。ニュース報道後にも死傷者は増えてたんだな)
「現場には慰霊碑を立てて、今も多くの方が献花に来てくださっています。慰霊碑はテレビでご覧になったかと思いますが、亡くなった方に学生が多かったので、現場には男子生徒の銅像が・・・」
(ふーん。知らなかった。現場を見に行くことなんてなかったからな)
「事故と言うより、置き石による事件だったんですが、犯人もまた学生で・・・・・・」
 脱線事故の現場は、特殊な場所だったそうだ。そこから先は市街地に向かっては高架軌道になっている。事故は郊外に向かう線路の、地上に降りるスロープで起こっていた。原因は置き石だったことが防犯カメラの映像で判明していたらしい。犯人は中学生だったとか。何ともやるせない気分だ。

 深夜0時から工事に向かった先は、脱線事故現場にほど近い慰霊碑の近くである。そこに設置されたATC(安全装置)のメンテナンス作業だった。不慣れな作業にも手際よく対応し、達也は同僚たちの役に立った。
 夜が明ける前に工事は完了し現場の整理も終わり、後片付けの最終確認も指差呼称で念入りに行われた。
 やがて電車が走り出し、達也の引き上げ準備が終わった頃には、6時になっていた。
 そして工事用のバンに乗る前に、達也は自動販売機の缶コーヒーを買おうと、慰霊碑の横を通った時、そこに本城奈美恵を見付けた。
(こんな朝早く何をしているんだろう)
達也は自販機にお金を入れながら、彼女の様子を暫く見ていた。ただ立ち尽くして慰霊碑を見ている少女に違和感を覚え、
「おはよう。どうしたの?」
と大きく声をかけた。すると彼女は振り向いて、
「おはよう。・・・わたし毎日、ここでお祈りしてるの」
缶コーヒーを掴むと、彼女に近付いた。
「毎日? こんな早くから?」
達也は缶を開けながら、頷く彼女の後ろに立つ慰霊碑の銅像を見て、ふと気が付いた。その学生像の頭にニット帽が被せてあったのだ。
「これひょっとして君が被せたの? なんか隆志に似てるね」
コーヒー缶に口を付けて言った。
「うん。隆志君に編んだやつ」
「あ、同じデザインなのかい?」
そう言いながら、慰霊碑のすぐ横、何げなくその碑文を見た達也。大勢の犠牲者の名前が刻まれている。そして自分の目を疑った。その瞬間、この少女との会話を続けられなくなり、暫く呆然とした。