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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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このコーヒーを飲み終えたら

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土曜日の朝



 達也は、今週の土曜は休みだったので、朝遅く起きると、リビングに紗英と隆志の姿がなかった。隆志は中学でサッカー部に所属している。もう練習に出かけたのは想像に容易いが、妻までいないのはどうしてだろう。
(買い物にでも行ったのかな)
達也はどうせ言葉を交わすこともないので、気にしないようにした。というより、一昨日の晩のカウンセリングで、何か吹っ切れた気がして、自分自身が変化し始めていることに気付いた。少し軽い気分でモーニングコーヒーを淹れている間、テレビを見ようとソファに腰かけると、玄関の呼び鈴が『ピン・ポーン』と鳴った。達也は面倒臭そうに立ち上がり玄関に出ると、そこに一人の少女が立っていた。
「隆志君いますか?」
(あれ? この子、どっかで見たような子だな)「隆志は多分、クラブに行ったと思うけど」
「サッカーは休みです」
「サッカー? あ、あれ? 先週の日曜日、河川敷のグランドでサッカーしてた子だよね」
「ええ、知ってます。おじさん、ベンチに座って観てたの」
「そうだったの。あ、君もサッカー部に入りたいの?」
「ううん。隆志君もサッカーやめたら、私と遊べるのに。でも今日は私と会う約束です」
「それは聞いてなかったな」(へえ、隆志のやつ、こんな子とデートの約束でもしてたのか)
「じゃ、きっとすぐに帰って来ると思いますから、待たせてください」
「連絡取れないの?」
「既読無視です」
「じゃ、僕から連絡してみるよ。ちょっと待ってて」
そう言うと達也は、その少女を玄関で待たせて、スマホを取りに部屋に戻った。そして、息子にSNSでメッセージを送ったが、既読にならない。
(あれ、隆志にメッセージ送るのって久しぶりだな。前回の履歴は3か月も前だ)
そう思いながら、玄関に戻ってくると、
「こっちもつながらないけど、どうします?」
帰れと言うわけにもいかず、かと言って中に招き入れるのもどうかと思案していると、
「中で待ちます」
「え、僕以外誰もいませんよ」
「お構いなく、大丈夫です」
(最近の子は何でも「大丈夫です」って言うなぁ。ほっといてくれって意味なんだよなぁ)
達也は渋々、彼女をリビングに入れると、その子はソファに深く腰掛けてスマホを触りだした。
(最近の子は・・・)
そして、居場所を奪われたので、仕方なくダイニングチェアに座った。
「君、名前はなんて言うの?」
「本城奈美恵です」
「あ、本城さんてこの前、小荷物送ってきてくれたよね」
「はい、隆志君にプレゼント送ったの」
「・・・どうして手渡しじゃなかったの?」
「貰ってくれそうにないんだもん」
彼女はスマホを見たままでそう言った。
(なんで? 付き合ってるんじゃないのか)