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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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凍える記憶1


 ――それはルーファスがクラウス魔導学院に入学して、初めての遠足のことだった。
 担任のセイメイ先生の事前情報によると、山の中にある温泉に行くらしい。
「なんて、ウソじゃないか!」
 ルーファスは極寒の雪山で叫んだ。
 雪景色の綺麗な温泉なんて期待できない。温泉なんてあっても、絶対温泉じゃなくて氷になってる。
 入学初の楽しい遠足だと、ワクワクしてた自分が悪かったと、ルーファスは反省した。
 他の生徒たちもそうだ。ただの温泉ツアーだと騙されてここに連れてこられたのだ。
 なのでみんな普段着。つまり防寒対策ゼロ。
 暦の上では秋だが、気温的な問題をいうと秋めいてくるのは秋分を過ぎてから、なのでまだまだ薄着の者も多い。
 なのに極寒!
 普通に凍死する。
 ルーファスはガタガタ震えながら、近くに立っている友人AとBを見た。
「なんで君たちちゃんと防寒対策してんの?」
 高そうな毛皮を着込んだクラウスと、普通の毛皮を着ているローゼンクロイツ。
 クラウスは後ろめたさで苦笑いを浮かべた。
「ウチの学院では恒例なんだ、入学早々の雪山登山が」
「なんで教えてくれなかったのさ?」
 ルーファスは恨めしそうにクラウスを睨んでいる。
「極秘の野外実習だから」
 それをなぜクラウスが知っているのか?
 国王の特権だった。
 しかも、ここは?クラウス魔導学院?だ。知っていて当然。
 ではローゼンクロイツはなぜ?
「あいつがコッソリ教えてくれた(ふにふに)」
 その?あいつ?をルーファスは察した。
「ああ、学院長ね」
 学院長がローゼンクロイツを愛してるのは周知の事実だ。
 ローゼンクロイツ本人はスゴク嫌がっているが、学院の学費や普段の生活費、ローゼンクロイツが世話になってる聖カッサンドラ修道院も、元を辿れば学院長が資金を出しているらしい。
 白い息と一緒にローゼンクロイツはため息を吐いた。
「あいつの言うこと聞くのイヤだけど、ボク寒いの苦手だから(ふー)」
 3人が雑談していると集合の笛が鳴った。
「みなさーん、早くお集まりなさぁ〜い!」
 少し高めの男性の声だ。どこかナヨナヨしている。
 東方の烏帽子[エボシ]を被った色白の東洋人。名をセイメイと言って、東方から来た魔術士(自称陰陽師)らしい。アステア王国では珍しいタイプの魔導を使う。
 ゴージャスな毛皮を首に巻いたセイメイはナヨナヨしながら、ルージュを塗った唇の前で人差し指を立てた。
「はい、みなさぁ〜ん、お静かにぃ」
 クラスの生徒たちが集合の合図で集まってきたが、それに伴ってザワザワしはじめた。
「みなさぁ〜ん、お静かにぃ」
 笑顔でセイメイは呼びかけた。
 しかし、生徒たちは友達どうしで話をやめない。というか、寒いので話してないとやってられないのだ。が、そんなことセイメイの知ったこっちゃない。
 セイメイの米神に青筋が浮いた。
「アタシの声は聴こえませんかぁ? 静かに……静かにして頂戴……」
 それでも生徒たちは静かにならなかった。
「オマエらうっさいんじゃボケナスがっ!(死ねクソガキ!)」
 人が変わったようにセイメイが咆えた。
 ピタッと生徒たちが凍りついた。
 セイメイ先生は2重人格のオカマで有名だった。
 ボロを出してしまったセイメイは必死に作り笑いを浮かべた。
「おほほほほほ……(美しいアタシのイメージが、イメージが……)」
 雅に笑って誤魔化すセイメイ。けれど、口元は痙攣して引きつっていた。
 クラスが静かになったところで、今回の雪山登山の趣旨を説明する。
「はい、それでは今回の?遠足?の趣旨をお話しまぁ〜す。クラス対抗で山頂を目指します。より多くの生徒が山頂にたどり着いたほうが勝ちよ。もちろん、負けたクラスは恐怖のバツゲームが待ってるわよぉん」
 より多くの生徒というキーワードのせいで、誰もサボれない状況に陥った。サボったらクラスメートにリンチされるのは確実だ。いつの時代も裏切り者への制裁は厳しい。
 加えて負けたらバツゲーム。
 すでにバツゲーム的な寒さなのに、本当のバツゲームは考えただけでも恐ろしい。きっとスケールアップした地獄が待っている。
 ちなみに付け加えると、未だかつで歴代の生徒たちで山頂までたどり着けたのは、ほんの一握りしかいない。
 セイメイは生徒ひとり1人に黄色い卵を配りはじめた。
「棄権者や命の危険を感じた人は、この卵を割るようにしてくださいぁ〜い。ただし、脱落者や棄権者には、キツーイ補習が待ってるわよ♪」
 身体が凍ってないクラウスが代表で手をあげた。
「質問です。卵を割るとなにが起こるのでしょうか?」
「はい、いい質問ですねぇ。卵を割ると救助隊が現場に向かいます。それ以上は、ヒ・ミ・ツ(はぁと)」
 人差し指を唇の前に立てたセイメイ。男なのに色白で美形のせいか、妙に艶っぽい。
 次にセイメイはマップと整備品を配りはじめた。
「山頂までのマップと、使い捨てカイロを4枚ずつ配りまぁ〜す。カイロは太陽神アウロと、炎の精霊サラマンダーの術を施した当魔導学院の特別製、身体の芯までポッカポッカよ」
 マップとカイロを配り終えたところで、セイメイは重要なことをつけ加えた。
「カイロは1枚30分で切れるようにワザとしてあります」
 この発言に生徒一同は、より一層凍りついた。
 命を繋ぐカイロが30分で切れると?
 今はまだ山脈の入り口だが、登るにつれてもっと寒さは増してくる。
 死の宣告タイムリミット2時間!
「なお、山頂には2時間では決してたどり着けない予定よ。だーかーらー、他人のカイロを奪うことを前提にしています」
 セイメイの眼がキラリーンと光る。
「これはサバイバルなのよ、弱肉強食なのよぉぉぉぉん!!」
 こうして地獄の熱くて寒いサバイバルがはじまったのだった。

 午前10時ちょうどにサバイバル開始!
 1学年は15クラスあり、クラスごとにスタート地点が違う。
 なるべく公平にスタート地点は設定されているが、相手は自然の山なので必ずしもというわけにはいかない。中でもセイメイクラスは、なかなかの難コース。どうやらセイメイがくじ引きで引き当てたらしい。
 占術なども得意と自称するセイメイだが、自称はあくまで自称なのだ。
 ぶっちゃけクジ運が悪い!
 セイメイクラスの中では、すでにいろいろなグループが出来ていた。基本的に仲の良い者同士が手を組み、いろいろな作戦で山頂を目指す。
 まだまだ入学して間もない時期であることから、なかなかグループを組むのに時間がかかっているようだ。けれど、こんな雪山を独りで挑むのは無謀だと、誰もがわかっていることなので、なるべくみんな人とグループを組もうとしている。
 しっかりと作戦を練ってから出発するグループや、とにかく特攻を決め込んだグループ。溢れたものたちを寄せ集めた、数で勝負のグループなどなど。
 ルーファスはクラウスとローゼンクロイツと手を組んだ。3人とも魔導幼稚園からの腐れ縁だ。
 クラウスとローゼンクロイツは昔から成績優秀で、魔導学院の1年生ではトップクラスの実力を持っている。この2人と組めば怖いものなしだ。
 問題はルーファスだった。
「このカイロ市販のより暖まるねぇー」