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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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 空色のドレスを着た女性は、硬貨を乗務員の手のひらの上に落とすようにして料金を支払った。
 馬車はすでに再び走り出しており、ガタガタと揺れている。馬車の中には席が設けられていて、そこに座りきれない場合は立って乗る。
 席はまだ空いている。が空色のドレスの女性はガタガタと揺れる車内の中を立っていた。しかも、ただ立っているだけではなかった。この女性はルーファスのことをずぅーっと凝視している。
 無表情の顔がルーファスのことをずぅーっと見ている。ルーファスもその人物のことをずぅーっと見ている。二人の間には変な空気が流れている。そして、空色のドレスを着た人物が口をゆっくりと開いた。
「……ひさしぶり、へっぽこくん(ふにふに)」
 この言葉を発した一瞬だけ、冷めたような目をしての口元が少し歪んだ。ルーファスを少しバカにしているような態度だった。そして、すぐに無表情に戻る。
 ひさしぶりと言われたルーファスは当然相手のことを知っている。この人物の名前はクリスチャン・ローゼンクロイツ、ルーファスが魔導学園に通っていたころからの知り合いで、今も一緒のクラウス魔導学院に通う同級生で、しかもクラスが一緒だったりする。そして、もうひとつ、彼女は彼女にあらず、彼だった。
「こっちこそひさしぶり(今日学校休みなのになんで学院に行くんだろ?)」
「なんで学校に行くのか聞きたい顔をしているよ。実はね、出席日数が足らなくて進級できないらしい……ちょっと自分に苦笑(ふ〜)」
 ローゼンクロイツは口に手を当て苦笑するとすぐに無表情な顔に戻った。そして機械のような正確な歩調で歩き、ルーファスの横の席に座った。
 ルーファスの右手にはビビが座っていて、彼女はルーファスごしに覗き込むような姿勢をとってローゼンクロイツを見たあとルーファスに聞いた。
「知り合いなの?(電波系って感じがするな〜、ちょっと)」
「小さいころからの知り合いで、今も同じ学校に通ってる(クラスじゃあんまり見かけないけど)」
 ローゼンクロイツは学校には来てはいるが授業には出ていない。そのため授業の出席日数が足らなくて進級が危うい。だが、彼は勉強や魔法を使う能力などは生徒の中で1、2を争う程で、授業に出ないで魔法の研究を独自にやっていて功績も納めている。ルーファスとはそこが違う。
 ローゼンクロイツは突然ぼそりと口を開いた。彼の思考は天才肌で少し常人と違っている。そして、勘が鋭い。
「そうだ、忘れてた(ふにゃ)」
「何を?(……ローゼンクロイツの思いつき発言は、いつも何かが起こる前触れ)」
 嫌な顔をするルーファスの心臓はバクバクだ。彼の嫌な予感はよく当たる。それは自分でも自覚している。
「嫌な顔、しない、しない、そんな顔していると嫌なことが本当に起こるよ(ふにふに)」
「だって、君の思いつき発言は何かが起こる前触れでしょ(しかも百発百通だからね)」
「そうなの! それは知らなかった……(ふにぃ〜)」
「自覚なかったの?」
「……ウソ(ふっ)」
 二人の会話をビビは珍しそうに見ていた。特にローゼンクロイツのことを。
「(不思議ちゃんオーラが出てるよ)あのさ〜、そっちの人の名前聞いてないんだけど?」
「人の名前を聞くときは、自分から名乗るもの……無礼者(ふーっ)」
 嫌な顔を一瞬してすぐに無表情に戻る。どうやらこれは彼の特性らしい。
「ねえルーファス、この人性格悪いでしょ?(絶対そう!)」
「そ、それはノーコメント(ほ、本当はすご〜く性悪だよ)」
 苦笑いを浮かべるルーファスのことをキッと睨んですぐに無表情に戻るローゼンクロイツは、再び思い出す。
「そうだ、それ悪魔(ふあ〜)」
 狭い馬車の中、しゃべり声は十分響き渡る。一同沈黙。
 ややあって、同乗していたおじさんが声を荒げた。
「悪魔だって!」
 これを合図にビビ及びルーファス&ローゼンクロイツ以外の乗客3名と乗務員がビビとできるだけ距離を空けた。
 この国では魔法は普段の生活でも珍しいものではない。だが、悪魔となれば話は別だ。
 恐れおののく人たちを見てビビは顔を膨らませながら一歩前へ出た。
「なによ、悪魔だからどうしたっていうのよ!」
 怒鳴り声に余計に震え上がる人々。こんな状況を打開すべく、ルーファスが立ち上がった。
「え〜、あのですね、みなさん、ほら、見てください。ただの可愛い人間の女の子ですよ。どこをどう見たら悪魔に見えるっていうんですか?」
 こんな説得ではうまくいかない。若い女の人が鋭い指摘をしてきた。
「だって、その子自分で『悪魔だから』って……(そう言ったわよ絶対!)」
 ビビはもう一歩前へ出る。
「アタシは正真正銘のちょ〜可愛い悪魔よ、それが何か?」
 ビビの身体が急に中に浮いた。ルーファスに抱きかかえられたのだ。そして、馬車の外へ飛び出す。
 何事もなかったように走り去っていく馬車を見送りながらルーファスはビビを地面に下ろした。
「普通の人は悪魔って聞いたら怖がるんだから、少しは隠すとかしてよ」
「別にいいじゃん、怖がらせておけば」
「……私とビビは今や運命共同体なんだから私に迷惑かかるでしょ?」
「私だって迷惑してるんだから。ルーちゃんに呼び出されて……もう、いいよ!(私がルーちゃんに迷惑かけて何が悪いっていうの?)」
 顔を膨らませながらビビはズカズカと歩いて行ってしまった。だが、少し行ったところから一向に前へ進まない。
 動作的には歩いている動きをしているが、まるでパントマイムのように前には進んでいない。これ以上はルーファスと離れられないのだ。
 くるっと振り返り、顔を赤らめて恥ずかしそうにルーファスのもとへ戻ってきたビビは言った。
「もう少し、一緒にいてあげてもいいかな……」
 ルーファスはやれやれと両手を軽く上げてため息を付いた。
「はぁ、子供だよねぇ、ホント」
「だから、子供じゃないって言ってるでしょ〜!!」
 ポカスカと殴られるルーファス。彼とビビの微妙な関係はまだまだ続きそうだ。