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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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桃髪の仔悪魔2


 自称ちょ〜可愛い仔悪魔ビビはルーファスの願望を叶える代わりに、それに見合ったルーファスの魂の一部を貰い、それを生きる糧とする。そして、ルーファスの魂を全部使い果たせば、ビビはルーファスの影から解放される……っぽい。ビビ自身も確証はないが、たぶん離れられるに違いない。
 今のビビはルーファスの中途半端な召喚術のために、ルーファスの影から長い間離れる事ができなくなってしまっていた。影から離れると急激に体力を消耗してしまううえに5メティート(約6メートル)以上離れることができない。
 だからビビはルーファスの影を拠り所としていて、そこから人間界で自分の存在を維持する為、全てのモノが持っていると云われる生命の源『マナ』を貰っている。
 マナの語源はこの世界の古代語で、『名誉』や『威厳』といった意味合いの言葉である。
 今この世界でルーファスの影を拠り所としているビビは、その為に影から出ることやルーファスの身体を長時間離れることに制限ができてしまっているのだ。
 そんなわけで二人は必然的にいつも一緒にいることになる。
 自宅のソファーらしきものに腰を掛けるルーファス。?らしい?というのはこの部屋が散らかり過ぎていて、この物体が本当にソファーかわからないからだ。まさに足の踏み場が無いというのは、こういう光景のことをいうのだろう。
 へっぽこ魔導士ルーファスの名を大人から子供、お隣さんの猫まで(どこの猫だよ)知らぬ者はこの国にはいない。そんな彼のへっぽこぶりと部屋が汚いのはきっと何か関係がある。つまりズボラ。
 ソファーに腰掛けるルーファスは、昨日から今日の今までの昼間ちょい過ぎまで考えていたことを深く、深〜く考える。そして、深く考えすぎて、眠くなって寝る。
 ガクっと首が動きパッと目を覚ます。
「(……寝るところだった)」
 寝そうになってどうする。深く考えるほどの難題があるのではないのか?
 ルーファスは昨日から悪魔ビビを祓う方法を一生懸命考えたのだが、ビビの存在を消滅させる方法は浮かんでもそれ以外の方法は全く浮かばなかった。
 悪魔の見た目は普通の少女と何ら変わらない。そんなビビをルーファスは消滅させることはできなかった。
 再び深く深〜く考えるルーファス。そして、また深く考えすぎて、深い眠りが……。じつはこのソファー、すっげぇふかふかしていて眠りを誘う魔のソファーだった。実際ルーファスはこのソファーで寝てしまうことが多い。
 ガクっとルーファスの首が曲がり、すやすやと静かな寝息が聞こえてきた。ルーファスは完全にソファーの魔力に負けたのだ。
 そんな至福の時を味わっているルーファスの安眠妨害をする者がいた。この家の奇妙な同居人だ。
「ねえルーちゃんお腹空いたよぉ」
 子供のようにポカスカと両手でルーファスを殴り喚く仔悪魔ビビ。彼女は今すっごくお腹が空いていた。
 お腹が空いたというのは人間が食するような食物を欲しているのではなくて、魂を欲しているのだ。
 ビビは人間が食べるような食べ物を食べて栄養を摂取することもあるが、それ以外に魔力の源として人間の魂を必要としている。人間の魂を喰らうことによりビビは、強力な魔力や若さを保つことができるのだ。
「お腹空いたよぉ〜(もう死ぬぅ〜)」
 近くで喚かれたルーファスは眠たそうに目をこすりながら返事をした。
「もうぉ、ちょっとは寝かしてよ(昨日から全然寝てないんだから)」
 昨晩はビビを祓う方法を考えて過ぎて眠れなかったのではない。ビビのことで眠れなかったのは変わらないが、その理由はしょーもないものだった。
「別に寝なくてもいいじゃん、アタシなんて寝なくても平気だよ!」
「ビビは寝なくても平気かもしれないけど、純人間の私は寝ないと持たないの(……昨日から、ずーっと元気なままだよな、この子は……)」
 不眠の理由、それはビビの遊び相手として一晩中付き合わされたからだ。この悪魔ビビは寝なくても平気らしい。
「お腹が空いたぁ、お腹が空いたぁ、お腹が空いたぁ〜!!」
「……見た目と一緒で性格も子供」
「だから、子供じゃないって言ってるでしょう! これでも426歳なんだから」
 ビビは頬っぺたを膨らませて顔を真っ赤にした――この仕草は子供だ。いくら426歳だろうが、ビビは子供としか言いようがなかった。
「頬っぺたを膨らませる仕草は十分子供だと思うけどな(どっからどう見ても、可愛い女の子だもんな)」
「子供じゃないもん(友達とかにも子供扱いされるけど、立派な悪魔なんだから)」
 ビビは悪魔友達からも子供扱いされているらしい。
「そうやって、拗ねてる感じも子供っぽいよ」
「もぉ、うるさいなあ!」
「そうやって、怒るのも子供っぽい」
「しつこい!」
 ルーファスはちっちゃくて可愛い女の子をイジメるのが以外に好きだったりした。断っておくがルーファスはロリコンではないのでご注意を。
 ビビのお腹がぐぅ〜と鳴いた。それにつられてかルーファスのお腹もぐぅ〜っと鳴いた。
 同時にお腹を擦る二人。
「お腹空いたよぉ〜」
「……う〜ん、たしかにお腹が空いたね(どうしようかな?)」
「この際魂じゃなくてもいいから、何か食べ物調達しに行こうよぉ(本当は魂の方がエネルギーになるけど……)」
「えっと、じゃあ市場にでも行こうか?」
「大賛成!」
 笑顔を浮かべ両手をうれしそうにあげるビビの無邪気な姿は、人間の魂を喰らう悪魔になんて絶対見えなかった。ここにいるのはあどけなさの残る?426歳?の少女だ(笑)。
 悪魔がこんな少女だからこそ、ルーファスは余計に消滅させることはできなかった。

 ルーファス宅からバザールと呼ばれる市場までは少し離れているので、そこに行く為に乗り合い馬車を使用する。
 この世界には空を飛ぶという魔法もないこともないが、その魔法は高度で体力などのエネルギーを多く使用する為に移動手段としては実用的ではない。
 狭い馬車に揺られるルーファスの横にはビビがいる。つまり、言うまでもないが影から出ているということ。
 ビビの見た目は少し目立つ服装をしているものの、そこらにいる女の子となんら変わりもない。
 馬車の中には数人の客が乗っているが、ビビのことは少しは変わった服を着ているとか可愛い女の子だなと思うかもしれないが、それ以上は気にも止めなかった。ある人物がこの馬車に乗り合わせるまでは……。
 この乗り合い馬車は決まった停車場所で客を乗り入れるが、道ばたで乗り込むことも可能だった。
 馬車が緩やかに止まった。ここは停車場所ではない。
 空色の生地に白いレースをあしらったドレスを着た美しい女性が、さしていた日傘を閉じて車内に乗り込んで来た。生っ粋のお嬢様のようだ。
 馬車の出入り口には乗務員がいて、乗ったらすぐに行き先をその人に言って料金を前払いする仕組みになっている。
「……魔導学院まで」
 ゆっくりとした口調で、透き通るような、そこに無いような声色だった。それに対して乗務員が料金を言う。決まった停車場所以外で乗った場合、料金は客が乗り合わせた前の停車場所から、客が言った停車場所までになっている。
「16ラウルです(いつも、ここで乗るんだよなこの子)」