小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

おじいさんとネコドローン

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

おじいさんはペペを寝床に呼びました。
ペペは嬉しそうに寝床に入りました。
ひざ掛けの感触をひげで確かめたり、もぐりこんだりしました。


暖かな春の陽ざしが縁側に射しはじめた早春のころ。
庭の桜の木の枝には、ちらほらと濃いピンクの花が芽吹いています。
居間では、おじいさんが趣味のボトルシップに取り組んでいました。
眼鏡をかけ、長いピンセットを持ち、おじいさんは悪戦苦闘です。
丁寧に慎重に、ボトルの中に小さなパーツを運んでいきます。
ペペは縁側で日向ぼっこをしながら、おじいさんを見たり見なかったり。
すると台所のほうで、ガタンと大きな音がしました。
おじいさんはピンセットを持つ手を止めました。
「何かな?」
という顔をしておじいさんは、ペペを見ました。
ペペもその音をキャッチしていました。
おじいさんに言われるまでもなく、ペペは台所に向かいました。
梁を飛びこえて台所に入ると、床にフライ返しが1本転がっていました。
本来はレンジ横のフックに掛かっているものです。
ペペがフライ返しを持ちあげようとすると、背後に黒い影が走りました。
ペペの6本目にひげが反応します。
その影は、柱をのぼって梁を横切りました。
ピンとくるものはあったものの、どこに消え去ったかはわかりません。
ペペはフライ返しをフックに掛けると、おじいさんのところに戻りました。
「何があった?」
おじいさんが尋ねると、ペペは
「チュウチュウ」
とネズミの鳴きまねをしました。
「ネズミがいたのか」
そうなのです。
この大きな家にはネズミ型ドローンがいました。
神出鬼没、悪さをするネズミドローンです。
ネコ型ドローンはそのネズミドローンを捕まえなければなりません。
1年に2匹以上のネズミドローンを捕まえないと、働きの悪いネコドローンとして製造元に返品されます。
逆にネズミドローンは悪さポイントを稼ぎ、ネコドローンに捕まらなければ命を永らえることができるのです。
具体的にどうやってネズミドローンを捕まえるのかというと、ネズミドローンの腰にある赤いピンを抜きます。
そうするとネズミドローンの動きが止まります。
その赤いピンをネコドローンは、自分の背中に差すことで捕獲が完了します。
しかし、ネズミドローンはすばしっこくて、そのうえ悪賢くて、簡単な作業ではありません。
ペペは今回ネズミなすすべもなくドローンの姿を見失っていまいました。
先が思いやられるペペでした。


ポカポカと春の陽気になりました。
庭の桜もほぼ満開です。
おじいさんは縁側に座り、組んだ足の上にペペを載せ、桜を眺めていました。
すると、ここにも悪さをするドローンがやってきました。
スズメドローンです。
小さなからだを花の間にもぐらせて枝にとまり、桜の花を根元から切って落とします。
何が楽しいんだか、ペペには理解できません。
ひとつ、またひとつ。
3つ、4つ、5つ。花が落ちていきます。
おじいさんはは悲しい目をします。
ペペはスズメドローンを追い払ってやろうと勢いこみました。
ペペが満開の桜の木に近寄ると、どうしたことでしょう。
桜の花びらが、驚くほどたくさん舞い飛びました。
ネコ型ドローンの風圧は、スズメドローンの風圧の10倍あります。
それで桜の花を吹き飛ばしてしまったのです。
花が少なくなった枝の上で、ペペは花吹雪を浴びていました。
スズメドローンは花がたくさんついている枝に移動しました。
ペペは、スズメドローンを1羽も追い払うことができませんでした。
桜の花も散らしてしまいました。
「ぺぺ」
おじいさんはペペを呼びました。
桜の花びらを背中に載せたまま、ペペはおじいさんのひざの上に戻りました。
「仕方ない」
おじいさんは、ペペの頭をなでました。
花を落とすスズメドローンを睨みながら、ペペは自分の無力さに萎えました。


雨がしとしと降る夕方、おじいさんがロッキングチェアに揺られながら、古い映画のDVDを観ているときでした。
チャンスがやってきました。
悪賢いネズミドローンが居間にあらわれたのです。
こんどこそ捕まえてやろうと、ペペは意気ごみました。
ネズミドローンは梁の上を移動していました。
それからネズミドローンは本棚の上に飛びおりました。
本棚の隅の追いつめてやろうと、ペペは部屋の隅でじっと身構えました。
ペペが予想した通り、ネズミドローンは本棚の一番上の棚から2番目の棚、3番目の棚へとおりていきました。
そこでいったん辺りを見回したネズミドローンは、3番目の棚に飾ってあるボトルシップの後ろにこそこそと隠れました。
ここだ!と思ったペペは、勢いよくネズミドローンに飛びかかりました。
ネズミドローンはボトルシップの後ろをすうっと移動していきます。
しかしペペはボトルシップの後ろを通ることができません。
ネコ型ドローンはネズミドローンより、4倍も寸法が大きいのです。
にもかかわらずネズミドローンを捕まえようとしたものですから、ペペの前足がボトルシップの台座にぶつかりました。
台座が動いてボトルが傾きます。
台座が床に落下しました。
ペペは慌ててボトルの落下を防ごうと力を尽くしましたが、間に合いません。
パリーン
大きな音とともにボトルは床に落ち、こなごなに壊れました。
ペペも一緒に落ちました。
けれど、運よく巻き添えにはなりませんでした。
巻き添えとなったのはボトルの中の客船。
原型をとどめない見るも無残な姿に。
ペペは頭を抱え、寝床に隠れました。
おじいさんはゆっくりペペのところにやってきました。
そしてペペに言いました。
「ぺぺ、けがはしてないか?」
ぺぺはニャーオと啼いてひざ掛けの下に隠れました。
おじいさんは割れたガラス瓶を掃除しながら、ペペに話しかけました。
「ずっと昔、近所の子どもが家に来て、誤ってボトルシップを壊してしまったことがあった。そのとき私はすごく腹が立って、その子どもを怒鳴りつけた。
そしたらうちの奥さんにひどく叱られたんだ、この私が。そんなに大事なものなら押し入れにでもしまっておきなさい! 子どもが泣くまで怒るなんて、
あなたバカなの?! 奥さんの言う通りだと思った。愚かだった」
割れたガラス瓶と壊れた客船をかたづけると、おじいさんはロッキングチェアに座って、ぺぺを呼び寄せました。
ぺぺは縮こまっておじいさんのひざの上に行きました。
おじいさんはぺぺが傷ついてないか調べ、それからぺぺの頭をなでました。
「なぁ、ぺぺ。形あるものはいずれ皆朽ち果てる。早いか遅いか、それは神様の思し召し次第。お前さんも、壊してやろうと思って壊したわけじゃない」
おじいさんは本棚の写真立てを見ながら言います。
「あの写真立ての女性が私の奥さんだ。美人で優しくて強くて、私を長年支えてくれた・・・」
おじいさんはぺぺの頭をなで続けます。
ぺぺはおじいさんの手のぬくもりを感じました。

西日が若葉に映える初夏のころ。
ゲロゲロ、ゲロゲロ、と庭の池のほうから鳴き声が聞こえてきます。
縁側でひとり、チェスの盤面とにらめっこしていたおじいさんは、眼鏡をとって
「カエルかな? 珍しい」
と呟きました。
ペペは知識として知っているものの、本物のカエルを見たことがありません。
作品名:おじいさんとネコドローン 作家名:JAY-TA