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おじいさんとネコドローン

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おじいさんとネコドローン




古い大きな家の前。
ガラガラガラっと、おじいさんは玄関の引き戸を開けました。
「こんにちは」
と大きな声で言いましたが、返事はありません。
「お邪魔します」
と言いながら、おじいさんは帽子を取り、履物を脱ぎました。
コートをコートハンガーに掛け、ゆっくりした足取りで玄関から居間に向かいます。
すると、居間の壁ぎわに段ボール箱が20個ほど積んでありました。

都会の生活に疲れたおじいさんは、山あいの村に引っ越してきたのでした。
40年連れ添った奥さんとは10年前に死別して、そのあとはひとり暮らし。
この古い大きな家での生活もひとりです。
家の中には誰もいないのです。
おじいさんは段ボールが積まれた居間に足を踏みいれました。
木製の使い古したテーブルと椅子がありました。
テーブルの上にも段ボール箱が載っています。
段ボールに書かれた文字が暗くて読みづらかったので、おじいさんは縁側の障子戸を開け放ちました。
澄んだ空気が淀んだ居間に入ってきます。
板張りの縁側の先に、小ぎれいな庭が見えました。
庭石の間にツツジやツバキの他に、桜の木がありました。
水車が回る石囲いの池もあります。
早春の陽ざしが居間いっぱいに広がりました。
空っぽの本棚に細かなホコリが舞い、キラキラ光ります。
おじいさんは段ボールに書かれた文字を見ながら、箱をひとつ開きました。
中国の歴史の本や、好きな作家の本が詰まっていました。もう読むことはないだろうと思いながら、おじいさんは大切な本を棚に並べました。
2つ目の箱には、好きな映画DVDとアナログレコードが数十枚。
おじいさんはそれも本棚に並べました。
3つ目の箱には中身の入ったワインボトルが10本。
これは本棚には飾れません。ワインの箱はそのまま閉じました。
4つ目の箱には現在の趣味であるボトルシップの完成品が、壊れないようしっかり詰め物がされて入っていました。
おじいさんはボトルシップを本棚に飾りました。
5つ目の箱には愛用のノートPCと写真立て。
ノートPCを居間の机の上に置くと、おじいさんは写真立てを手に取りました。
曇って見えるガラス面を袖口で拭いて、棚に置きます。
亡くなった奥さんと旅行に行ったときのスナップ写真。

椅子に腰かけてしばらく写真を見ていると、おじいさんの耳にネコの啼き声のような音が聞こえてきました。
耳を澄ませると、それはたしかに「ニャーオ」と言っています。
そしてそれは、段ボール箱の山に中から聞こえてくるのです。
おじいさんはネコの啼き声がする段ボール箱を開きました。
箱に中に隠れていたのは、白い毛に覆われたネコ型ドローンでした。
うつ伏せになって尻尾を背中に付けています。
「お前か、ニャーオと啼いたのは?」
おじいさんはネコ型ドローンに言いました。
ネコ型ドローンはニャーオと啼いて返事をしますが、動きません。
背中と尻尾が大きな貼り紙シールで留められているからです。
そのシールにはこう書いてあります。
”ネコ型ドローンをご購入いただきありがとうございます。
まずはじめにお使いのPC等にネコ型ドローンが接続することを許可してくださいますようお願い致します。
このシールを剥がすと自動的に許可認証されます。
そののち、ネコ型ドローンに名前を付けていただくと、よりなつきます”
おじいさんは背中のシールをそっと剥がしました。
するとネコ型ドローンの目がキラリと光りました。
白い毛をブルっと震わせたかと思うと、6本の髭をピンと張りました。
そしてお尻を持ち上げて、伸びをするように背中を伸ばして尻尾を立てました。
おじいさんは目を細めて言いました。
「私が昔飼っていたネコそっくりだ。ペペという名前にしよう」
ペペと名付けられたネコ型ドローンは、ニャーオと啼きながら段ボール箱から飛びだしました。

ペペは、おじいさんのPCに接続し、おじいさんに飼われるネコドローンに
なりました。
そののちペペは、家中を駆けまわり飛びまわりました。
この大きな家の各部屋には天井板がありません。
各部屋から直接大屋根の裏側が見える吹き抜け構造になっています。
おじいさんは部屋から部屋へ移動するのにドアを開けたり閉めたりしなければなりません。
ところがペペは、ドアの上の梁を飛び越えて各部屋の間を自由に行き来できるという訳です。
そうやってぺぺは、家の広さや構造をインプットている間、おじいさんは段ボールの荷物をひとつずつ整理しました。
三つある写真立てのふたつ目をキッチンに、三つ目をベッドサイドに立てると、おじいさんは居間に戻りました。
空になった段ボール箱をおじいさんは、ひとつ手にとりました。
箱の4つの上端を内側に折り曲げると、それを居間の隅に置きました。
「ペペ、ペペ」
おじいさんが呼ぶと、ペペが飛んできました。
「お前の寝床を作ったよ」
ペペは段ボールの寝床に入りました。
しばらくじっとして、それからニャーオと啼きました。
「粗末な寝床ですまんな。しばらくそれで我慢してくれ」
ペペは再びニャーオと啼きました。

大きな家のせいか、古くてすきま風が入るせいか、おじいさんは少々寒気を感じました。
石組暖炉を模したの電気ストーブがちらちら燃えて部屋を暖めているのですが、なかなか暖かくなりません。
「ペペ、寒くないか?」
ペペは寝床のなかでニャーオと啼きました。
「もうすぐ春なのになぁ」
おじいさんは部屋着を二重に着こんで、アーガイル模様の赤いひざ掛けをひざに掛けてロッキングチェアに座りました。
「ペペ、こっちへおいで」
おじいさんは自分の膝を指さしてペペを呼びました。
ぺぺはふわふわ飛んで、おじいさんのひざの上に乗りました。
おじいさんはぺぺの背中をなでました。
それから尻尾をなでると両腕でペペを抱きしめました。
ぺぺのひげがおじいさんの手に当たります。
実はペペのひげには特別な機能があって、右の3本は飼い主の体温と脈拍と血圧と血中酸素濃度が測定できます。
左の3本のうち2本は空気中の温度や湿度や風向きが測れます。
最後の1本は、危険を察知するセンサーです。
これは経験を積むことで精度があがります。
経験値の浅いぺぺはまだ使いこなすことができません。
「そうだ!」
おじいさんは不意に椅子から立ちあがりました。
ぺぺは飛びのいて寝床に戻りました。
おじいさんはテーブルに座りPCに向かいました。
ショッピングサイトを開いて、ポチポチとキーを叩きました。
「これでよし、っと」
おじいさんはロッキングチェアに戻ってへたりこむとそのまま寝入ってしまいました。
しばらくすると玄関チャイムが鳴りました。
ペペはおじいさんの周りを飛びまわり、来客を知らせます。
浅い眠りから覚めたおじいさんは、玄関に向かいました。
「どちらさまですか」
おじいさんが尋ねると、ドアの向こう側から
「宅配便です」
と返ってきました。
おじいさんはドアを開けて、宅配ドローンから荷物を受け取りました。
居間に戻って梱包を解くと、箱の中から出てきたのは、アーガイル模様のひざ掛けでした。
おじいさんはそのひざ掛けを4つに折りたたみました。
そしてペペの寝床の底に敷きました。
「これで、ちょっとはましな寝床になったかな」
作品名:おじいさんとネコドローン 作家名:JAY-TA