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⑦冷酷な夕焼けに溶かされて

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だんだんと、体に力が入らなくなり、私は壁を背にずるずると座り込んだ。

(…体が…。)

掴まれた腕をふりほどこうと必死に抵抗を試みるけれど、鉛のように重い体は思うように動かない。

身体中が小刻みに震え、動こうとすればするほど痺れが広がっていった。

「さすが我が故郷、地の都の薬は効くのう。
ネージュも、地の都の媚薬で私にミシェル達を宿らせたからなぁ。」

ネージュ…ルーチェのネージュ王。

「ネージュは元々、雪の国の王子でな。
驟雪(しゅうせつ)と名乗っておった。
それを帝国の読み方で『ネージュ』と改名したのじゃが、本当に美しい男でな。
雪の国が滅亡した後、我が父王の近衛にいるところを我が見初めたのじゃ。
だが、謙虚な男でな。
亡国の元王子が次期王である我の後宮に入ることが、身分をわきまえていないと言うてな。
なかなか側にあがらぬ故、媚薬の力を借りたのじゃよ。
まぁ、その後のことは、ルーチェで会うた時に話した通りじゃ。」

(…。そうだ。)

私は、男達の肩越しに見える覇王を見つめる。

「あの時、あなた様は『ルーチェの王位を継がせる為に、ネージュ王にミシェル様を預けた』とおっしゃっていました。
でも、なぜ影にしたミシェル様にルーチェを継がせられると思われたのですか?」

組み敷こうとしてくる男達に噛みついて必死に抵抗しながら訊ねると、覇王はころころと鈴のような軽やかな声を上げて笑った。

「おお、そのことか。
それは、ミシェルがルーチェを継げば、戦わずしてあの広大な国が我が手に入るじゃろう。
せっかく、ルーチェにもうひとりいるのならば、使わぬ手はない。
戦争も、無駄な金と労力が掛かるのでな。」

頭の使い方と言わんばかりに、自分のこめかみを突付きながら答える覇王。

(それでミシェル様は王冠を被らなかったのね…。)

「ミシェルがルーチェ王位を継いだら、帝国で育てているミシェルを処分しようと思うてネージュを殺したのに、ネージュの死後もなんだかんだ理由をつけて、あやつがなかなか正式に戴冠せぬから、困っておるのじゃよ。」

(…っっ!)

ミシェル様は…ルーチェのミシェル様は…双子の兄を守る為に正式に戴冠せず、それで王冠も被らなかった。

そして自らに与えられた帝国の王位継承の証を隠し、時間稼ぎすべく夜伽の褒美として私へ与えたのだ。

けれどその誤魔化しもだんだん限界を感じ、それで覇王を消してしまおうと思ったのだろう。

私は腕を掴んできた男の手に、思い切り噛みついた。

「ぐっ!」

皮膚を噛み切る勢いで歯を立てたので、男は顔を歪め呻きながら私から手を離す。

「ミシェル様は…帝位を継げませんよ。」

大量の汗と浅い呼吸を繰り返しながら挑発するように告げると、覇王の顔が瞬時に険しくなった。

それまでの嘲笑をおさめ、般若のような表情に変わる。

「なんじゃと?」

怒気を孕んだ声色に一瞬怯みそうになるけれど、私はぐっと下腹に力を入れて、負けじと覇王を睨んだ。

「なぜなら、王位継承の証である剣も、その剣に付けられていた証の宝石(いし)も、星一族が持っているから。
今、覇剣は星一族の手にあります。」