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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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5. 選ばれし者


「――ちょっと」
 誰かが肩を叩いている。
「ねえ、起きなさいよ」
「う……ん。もう、朝?」
 暖野は頭を上げた。
「何、寝惚けてるのよ。授業、とっくに終わってるよ」
「あ……」
「あ、じゃないでしょう? 初日からよく寝ていられるわね」
 えーと……、私は――
 周囲を見回す。
 ここは――
 さっきの講義室だった。
 また、あの夢の続き――?
「先生がそのまま寝かしておくようにって言ったから、放置してたけど」
 暖野を起こした子が言う。「本気で寝ちゃうんだもんね」
「あ……あの――」
「あなた、転入生よね」
 言いかけた時、横から別の声が割り込んできた。「私は級長のアルティア・ワッツ。よろしく」
「はあ。こちらこそ、よろしくお願いします。高梨暖野です」
 よく分からないまま暖野は挨拶を返す。
「ところであなた、もう転入届は出した?」
「転入届、ですか?」
「その様子だと、まだのようね」
 アルティアと名乗った女の子は、最初に声をかけてきた子に向き直る「マーリさん、この人を学寮部まで案内してあげてくれるかしら」
 暖野は事態が掴めないまま、マーリと呼ばれた子に手を取られて教室を出た。
「みんな、忘れるのよね、転入届」
 廊下を歩きながらマーリが言う。「大体、そんなものがあるなんて知らない人が多いから」
「はあ」
 忘れるも何も、彼女の言う通り暖野もその存在自体知らない。
「今はアルティが級長だからいいけど、前の人は適当だったから、私なんか何日も放置されてて――」
「あの……」
「何?」
「マーリさん?」
「あ、自己紹介がまだだったわね。私はリウェルテ。リウェルテ・マーリ。えーと、あなたは……タクネ……だったっけ?」
「高梨暖野です」
「あ、そうそう。タカナシね。それにしても、呼びにくい名前ね」
 彼女の話しぶりでは、どうも欧米のように名前が先のようだ。ということは、マーリが姓なのか。
「それと、リーウでいいわよ。みんなそう呼んでるし」
「じゃあ、私もノンノで」
「で、私に何か聞きたいことがあるんでしょ?」
「ええ、転入届って」
「ポケット」
 リーウはそう言って、暖野の左胸を指さした。「内ポケットよ」
 言われて内ポケットを探す。着なれない不思議な衣装のため、ポケットそのものを探すのが先だった。脛(すね)辺りまである長い前掛けの内側に、それはあった。小ぶりの表彰状のような巻かれた紙だった。
「これ?」
「そう。それを提出したら終わり。後で学務部から通知があるから、それに従えばいいだけよ」
「そうなの……」
 リーウと並んで歩きながら、なんだか宏美みたいな子だな、と暖野は思った。
 廊下では何人かの生徒達と出会ったが、学校の大きさの割には生徒数が少ないようだ。
「ここよ」
 突き当りの扉の前で、リーウが言う。「中に窓口があるから、そこに置いてくるだけ。怖がらなくていいわよ」
 暖野の気持ちを見透かしたように、彼女は付け加えた。
 扉を開けると、そこには町医者の受付のような窓口があり、右側に別のドアがある他には何もない。窓口にトレイが置いてあり、暖野はそこに巻かれたままの紙を置いた。
 それにしても、随分とリアルな夢だな、と暖野は思った。
 失恋の夢も就活の夢もリアルだったが、これはまた別の意味で現実感が強い。
「ねえ、――リーウ?」
 少し迷いはしたが、暖野は訊いてみることにした。どうせ夢なんだから、恥ずかしいことはない。「これって、夢なんでしょう?」
 それを聞いた彼女は、声を立てて笑った。
「やっぱり、そうだったんだ」
「え? やっぱりって?」
「時々いるのよ。知らずに来る人が」
「あの……ちょっと、わからないんだけど」
「うん。ごめんごめん」
 まだ笑いながら、リーウが言う。「あのね、ここには志して選んだ人か、選ばれて志した人しか来られないの。でもね、選ばれただけの人もたまにいるのよ。少ないけど」
「えーと、前の二つは同じなんじゃ……」
「違うわよ」
 と、リーウはバッサリと言う。「志しても選ばれなかったら入れないでしょ? そして、選ばれて志したのなら、自分でそれを知ってる」
「じゃあ、私は……」
「そう。選ばれたけど、そのことを知らない。でもね、選ばれただけでも来られないらしいから、その辺のことはよく分からないのよ、私にも」
「夢じゃ……」
「ないわよ。それと――」
 リーウは暖野の方に向き直る。「ここは特殊統合科学院。簡単に言えば、魔法学校よ」
「ま……」
 暖野は言葉に詰まる。
「そうよ、魔法よ。ノンノも興味あるんでしょ? でないと、来られるわけがないものね」
 確かに、魔法とかには興味はある。よほどの現実主義者でもない限り、誰でも少しはあるはずだ。
「まあ、少しは」
 暖野は控えめに答えた。
「それに、心当たりもあるはず」
 リーウがニヤリと笑う。
 心当たり――?
 私が選ばれたって――
『――本は、読む人を選ぶといいますからね――』
 マルカの言葉を思い出す。
 あの本――!!
 そうか、あの本が私をここへ連れて来たんだ――
 なるほど、そうかと暖野は思った。寝る前に魔術の本を読んでいて、そのまま寝てしまったから――
「まだ、夢だと思ってるでしょう?」
 リーウが言う。「何なら、蹴りを入れてあげようか?」
「い、いらないわよ!」
 何なのよ、これ――
 本当に夢じゃないの? 本当に魔法学校に――
「難しいこと考える必要なんてないのよ。そんなの、勉強だけで充分」
 どのみち、夢ならいつか醒めるだろうし、それまでは流れに任せるしかないか、と暖野は諦めた。だが、もしこれが現実だったとしたら、マルカはどうなるのだろう。
 彼が起きたとき、私がいないことに気づいたとしたら――
 まあ、リーウの言うように、考えても仕方ないのかも知れない。
「それで、さっき学務部から通知があるって……」
 暖野は訊く。
「所属クラスの通知。でも心配いらないわ。大体最初のクラスに決まるから」
「ふうん、そうなんだ」
 その時、鐘の音が聞こえた。
「あ、いけない! 急いで戻るわよ!」
 暖野はまた手を引かれて、教室に戻ったのだった。
 特殊統合科学院ね――
 席に着いて、教壇の方を見ながら暖野は思った。
 大層な名前の割には――
 黒板には、大きな文字で“自習”と書いてある。
 随分とオーソドックスなやり方だ。魔法とか科学とか言うのなら、空間プロジェクションとか出来そうなものなのに、アナログ過ぎる。しかも、自習と言っても何の授業かも分からない。
 だが、学生というのはどこの世界でも同じもので、真面目に勉強している者もいるが、ほとんどは好き勝手なことをしている。
 暖野の所にも、早速リーウがやって来た。その他にも何人かの生徒が集まってくる。
「ねえ、あなた。選ばれた者なんだって?」
「さっきの授業のとき、すごかったよな」
「さすが、選ばれた者は違うよな――」
 皆が口々に言い寄ってくる。
「あの先生が褒めるなんて、滅多にないことだもんな」
「ちょ、ちょっと――」
 てんでに話されて、暖野は誰が何を言っているのか分からなくなってしまう。
「みんな、いっぺんに喋ったら困っちゃうでしょ」