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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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 菓子は、堅焼きクッキーとキャンディーの間のようなものだった。プレッツェル――学校で食べているパンのようなものではなく、前から暖野の知っていたタイプのプレッツェルに近い。
「喉乾いちゃった」
 暖野は言った。「ちょっと休もうよ」
 炎天下の広場で露店を冷やかしながら、甘い菓子を幾つも食べたせいだ。しかし、片手はすでに塞がっている。どこか座れる所はないかと、暖野は見回した。
「あそこで、いいじゃない」
 リーウが噴水を指さす。
 仲睦まじいカップルや帽子を被った老人が、噴水の縁石に腰掛けている。広場にはベンチはなさそうなので、そこは唯一の休める場所とも言えた。
 リーウの交渉のおかげで菓子はまだふんだんに残っている。バッグ類を持って来なかったせいで、常に手に持っていなければならなかった。
「飲み物買ってくる。ノンノはあそこで待ってて」
 リーウが言う。「何がいい?」
「何があるの?」
「何でも」
 それが、一番困るというものだ。何でもあると言われて実際言ってみると、それは無かったりする。
「具体的に言ってよ。私、ここのこと良く知らないんだし」
「そうね――」
 リーウが考える。「やっぱり、一緒に来て」
 まあ、それが一番手っ取り早いだろう。
 リーウは露店ではなく、普通の店に暖野を案内した。
「リーウ、ここは二度目なんでしょ?」
「そうよ」
「よくこんな店、知ってるわね」
 表の露店に隠れるようにひっそりと、その店はあった。
 小さなキッチンにテイクアウト用のカウンター、ささやかな飲食スペース。
「ほら、メニューよ」
 リーウが上を指す。
 定番のコーヒー、紅茶類の他に、ソーダやスムージーもあるようだ。
「私、キウイとレモンのソーダがいいかな」
 暖野は言う。少し暑いため、さっぱりしたものが飲みたかった。
「じゃあ、私は――スペシャルフラッペ。あ、ジャムたっぷりでお願い」
 リーウがオーダーするのを聞いて、暖野は胸が悪くなった。
 片手に菓子の包み、もう片手に飲み物を持って、二人は噴水の縁に腰掛けた。
「リーウったら、よくそんなもの飲めるわね」
「甘いものは別腹って言うでしょ?」
「別腹の方がメインっぽい」
 リーウが笑う。
「確かに」
「お昼に、あんだけサンドイッチ食べて、お菓子も食べたのに」
「エネルギー補給だから、いいのよ」
「補給し過ぎじゃない」
「うん? 両替でマナ使ったからね。その分補わないと」
 生クリームを口に運びながら、リーウが言った。
「そっか、今日のために」
「気にしなさんなって」
 見ていて気持ちが悪くなるほどに甘そうな感じだが、リーウは涼しい顔で食べている。
「有難うね」
 暖野は言った。
「マナで両替して、その分で美味しいもの食べられるんだから、プラマイゼロ」
「なるほど。でも、私の方がマナ余ってるんじゃないの?」
「あんた、昨日私を突き飛ばしたでしょ?」
「あれは――」
「いいのよ。あれは私が調子に乗り過ぎたんだから。私が言いたいのは、マナ使ったでしょってこと」
「うん……」
 実際、どれほどマナを消費したのか実感はない。
 そうか――
 暖野は今朝のリーウの様子を思い出した。
「で、リーウ。どれくらい両替したの?」
「二十パーセントくらいかな」
「そんなに!」
 それでは朝起きられないはずだ。リーウの基礎体力のほどは分からないが、無理をしたのだろうと暖野は思った。
「だから栄養補給。今日は幾ら食べても大丈夫」
 そう言われてしまうと、有難さも半減してしまうと言うものだ。
 暖野は自分のキウイ・レモンソーダを一口飲む。爽快な酸味と仄かな甘みが広がる。一気に飲んでもいいようなものだが、登山などしていると水分補給はこまめに小分けになってしまう。それに、一気に飲むと、途中で味が分からなくなる。
 午後の陽射し、活気ある町、優しい人々、自分を思ってくれる友人。この幸せがずっと続けばいいと、暖野は思った。