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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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6. リウェルテ


 寮に着くと、まず寮監窓口に向かった。
 正面玄関を入ってすぐ右手に、それはあった。
「ノンノ・タカナシさん、二人部屋……」
 窓口の女性は、名前を聞いて何やら書類に目を通してから、おもむろに棚に手を伸ばした。「はい、338号室ね。あいにく二人部屋には空きがなくてね」
 出された鍵を受け取り、奥へ向かう。
 雰囲気は、沙里葉で最初の夜に行ったアゲハの邸(やしき)に似ている。暖野は知らないが、ネオ・ルネッサンスの影響を濃く受けている。簡単に言えば、古い洋館独特の様式だ。
「私の部屋のちょうど上くらいだね」
 リーウが言う。
「リーウの部屋は何号室なの?」
「233よ」
 言われても、位置関係が分からない。とりあえず二人は暖野にあてがわれた部屋に向かう。暖野としては最初にリーウの部屋を見てみたかったのだが、新しい部屋を見たいというリーウに押されてしまった。
「やっぱり広いわねー」
 部屋に入るなり、リーウが言う。
「って言うか、ここって」
 暖野は部屋を見回す。「4人部屋じゃないの」
「いいじゃない。得した気分でしょ?」
 ご機嫌でリーウが言った。
 だが、暖野はあまり嬉しくない。と言うか、むしろ嫌だ。
 4人部屋に一人というのは寂しいというのもあるし、それに――
 怖い。
 それを言うと、リーウがまた笑う。
「大丈夫よ。私がついててあげるから」
 でも、二人でもちょっと……。
 言いあぐねてしまう。変な所で臆病者だとか思われたくない。絶対にからかわれるだろう。
「なに? ホントに怖いの? 何なら、ショック療法ってのもあるよ」
 ニヤつきながらリーウが言う。
「ショック療法……」
「夜通し怪談話するとか、肝試しとかさ」
「いやよ!」
「ほぉら、あそこの隅っこに――」
「知らない知らない知らない!!」
 暖野は耳を塞ぐ。「――ひぃっ!」
 思わず悲鳴を上げる。
 同時にリーウのこの世ならざる声が聞こえた。
「いっ痛たたた……」
 リーウが頭を押さえている。
「だ、大丈夫?」
「あんた、今、力使ったでしょ?」
「知らない。必死だったから。でも、ごめん」
 リーウは、反対側の壁まで突き飛ばされていた。
「ううん。謝るのは私の方。ちょっと、ふざけ過ぎた」
 ドアが激しく叩かれる。
「誰だか知らないけど、うるさいわよ! 静かにしてくれる?」
「すみません。ちょっと荷物を落として……」
 リーウがドアを開けて謝る。
「あら、あなたは――」
 ドアを叩いた主は、暖野を見て言った。
「ノンノ・タカナシです。お騒がせして済みません」
 何だか今日は謝ってばかりだと、暖野は思った。
「あなた、確か通いよね。どうしてここに?」
「訳あって戻れなくなったので、お世話になることになりました」
「そう、あなたも大変ね。でも、もう少し静かにしてちょうだいね」
「はい、気をつけます」
 ドアを閉める。
「もう! また怒られちゃったじゃない」
 暖野はふくれっ面をする。
「ごめん。だって、ノンノの反応が面白いから」
「私は玩具じゃないのよ」
「分かってるわよ。でも、弄(いじ)り甲斐があるって言うか……」
「全然謝ってないじゃない」
「それはそうと、ノンノは着替え持ってないよね」
「う……うん」
 上手く話を逸らされた。
「ここに一人で寝るのも二人なのも嫌だったら、私の部屋に来ればいいのよ」
「どうせ、最初からそのつもりだったくせに」
 暖野は唇を尖らせる。
「私はいいのよ。一人がいいなら、ここで寝たらいいじゃない」
 暖野は部屋を見渡す。
 さすがに一人には広すぎる。
 先ほど散々怖がらせられた後では、ここで一人で寝るのは気が進まない。
「リーウって、人を乗せるのが本当に上手ね」
「当たり前よ」
 リーウが胸を張る。「私は人を乗せて飛ぶのが夢なんだから」
「意味が違う。それに、調子に乗り過ぎ」
 暖野は怒って見せる。「次は正門の向こうまで飛ばすからね」
「う……。それは勘弁して。あんたなら、ホントにやりかねない」
「もう! 人を馬鹿にするのもいい加減になさいよ」
 二人は階下のリーウの部屋へ移動することになった。
 233号室、リーウの部屋は一人用で、広さもそれに見合うものだった。やたら広い4人部屋よりずっと居心地が良さそうだ。ただ、散らかり過ぎなのを除いて。
 リーウは床に散乱した雑多な物を脇へ押しやりながら、暖野に適当な所へ座るよう促した。
「どう?」
 リーウが自慢げに言う。
「どうって。もっと、ちゃんと片付けなさいよ」
 床の物を除けたのはいいが、その分ベッドや机の上が酷い有様になってしまっている。
「何せ一人だからさ」
「言い訳にもならないよ。私だって一人部屋だけど、ちゃんと掃除とかしてるよ」
 それは半分以上は嘘だ。大抵は母の珠恵がしてくれている。
「ふうん。ノンノも一人暮らしなんだ」
「違うよ。自分の部屋があるだけ」
「なるほど。偉いね」
 リーウが素直に感心している。「ああ、そうそう。着替えだったね」
 リーウはクローゼットを開ける。「どれでも好きなのをどうぞ」
 あー……
 暖野は言葉に困った。
 リーウって、マルカ並みにセンスおかしい――
「えーと……」
 クローゼットの中を見て言う。選べと言われても、正直困る。
 このロリロリなラインナップは何――?
「そうね、ノンノにはこれなんか似合いそう」
 リーウが出したのを見て、暖野は思わずのけぞってしまう。
 レモン・イエローとラメのフリフリ……
「どう? 可愛いでしょ?」
 自慢げにリーウが言う。
「う……うん」
「あ、これもいいかな?」
 次はショッキング・ピンクか――!
「いや、それはさすがに……」
「そう?」
「じゃあ――」
「ごめん、自分で選ぶ」
 暖野は言った。悪気がないのは知っているが、着せ替え人形のようにされるのはごめんだった。
「そうよね。ノンノにも好みがあるもんね」
 暖野は改めてクローゼットの服を見た。どれも呆れるほどに少女趣味に溢れたものだった。だが、そのうちの一つに目が止まる。
「これ」
 ハンガーを抜き出す。
 それは、ジャージだった。普通の体操服。「これでいい」
「あれ? そんなのあったっけ?」
 リーウが首を傾げている。
 不思議がるリーウ。ひょっとすると、これも暖野が引き寄せたのだろうか。
 食事と入浴を済ませ、二人はリーウの部屋に戻った。リーウは乙女満開のパジャマ、暖野はジャージというちぐはぐな取り合わせだ。食堂から持って来た飲み物とお菓子を挟んで他愛のないお喋りをしている。
「ねえ」
 ふとした拍子に会話が途切れた時、暖野は言った。「リーウって、私以外に友達とかいるの?」
 リーウに限らず、学内で群れている生徒は少ないような気がする。
「いたわよ」
 ビスケットを口に放り込みながら、リーウが言った。
「いたって、それは……」
「そのままの意味よ」
 今度はジュースを半分ほど呷る。
 いけないことを聞いてしまったと、暖野は思った。だが、もう遅い。
「卒業とか何かで?」
「ううん」
 リーウが首を振る。そして更にもう一枚、ビスケットを食べる。どこか無理をして、ただ口を動かすためだけに菓子に手を伸ばしているようだ。